今こそ「矢野流」貫徹の時-。暗黒の開幕戦線からはい上がり、阪神は貯金1。28日からは眼上の敵・ヤクルト3連戦を戦う。コロナ禍による開幕3か月遅れの影響もあるのか、各球団ともストッパーが不調で故障者も続出する。誤算と手探りが続く指揮官にとって、もう1つの敵が采配に対する批判である。SNSなどでは出遅れたチームの監督にネガティブな投稿が際立つ。85年日本一当時のトラ番で元和泉市長の井坂善行氏(65)は、自らのマネジメント経験を含め「外野の声はコロナ禍と同じで、認識しながら付き合って乗り切ることだ」と、今こそ矢野流貫徹を提言する。

  ◇    ◇    ◇

開幕4カード目だった6月のナゴヤドームでの中日3連戦は、阪神が3連敗して借金が8。セ・リーグの借金をすべて背負うことになるなど、まさに地獄の開幕戦線を象徴する戦いぶりだった。

その中日に甲子園では3連勝を果たし、24日からのナゴヤでも勝ち越した。まさに「倍返し」の逆襲を見せたのだが、見ている者にとっては阪神が強いというより、中日が弱すぎる印象だった。

その中日の与田監督のコメントに気になるフレーズがあった。継投策失敗を問われた時、「打たれたのだから私のミス。采配ミスと書いてくれてもいい」というもので、プロ野球の監督が采配ミスを認めるのは珍しいことではないが、番記者に対して「書いてくれてもいい」とまで言及するのは、明らかに自分の評価に対する意識が過剰になっている時である。

そういえば最近、いまだに慣れない手つきではあるが、スマホをいじっていると、プロ野球の監督についての投稿が目立つ。監督の評価とチームの成績は当然比例するものだから、高評価は巨人原監督、ヤクルト高津監督となる。とくに原監督については、大胆な選手起用、采配が的中するものだから、SNSだけでなく評論家陣でさえ「あっぱれ」の高評価である。

先に触れた中日与田監督については、延長10回のサヨナラ機の代打に投手しか残っていなかった「迷采配」が取りざたされ、DeNAラミレス監督は守護神山崎の処遇を含めた不可解なマネジメントが批判され、広島・佐々岡監督は「無策」と断じられる始末である。

では、肝心の矢野監督はどうか。いきなり借金8を背負った開幕戦線は、矢野采配はメディアからもファンからも集中砲火を浴びた。ボーアがまるっきり打てず、2番構想をブチ上げた近本もスランプ。抑えの切り札・藤川は一時2軍調整するなど、2年目の矢野構想がガタガタに崩れてしまった。

そこからはい上がるだけの選手層の厚さが強みだし、手探りながらチームを立て直してきた手腕は評価されるべきだろう。

しかし、7月に入ってから、矢野監督は試合開始直前にリモート出演とはいえ、テレビ番組に出て、「開幕当初は何をしてもうまくいかず、正直言って試合をするのが怖かった」と語った。私からすれば、これはまだ早い。本音には違いないが、まだ本音を話す時期ではない。おそらく、初めて体験する矢野批判への重圧もあったはず。しかし、戦う相手はそこではない。今こそ、頑固一徹・矢野流を貫いてチームを軌道に乗せることが命題である。

 

○…自慢にも何もならないが、結構本格的な「サウナー」だと自負している。サウナにはまったのは阪急(現オリックス)のキャンプ地・高知で、当時押しも押されもしない大エース・山田久志氏(日刊スポーツ評論家)に誘っていただいてからになるから、もう40年近くサウナ通いをしていることになる。

現在の行きつけのサウナは、自宅近くにあるスポーツジムに併設されたサウナである。コロナ禍によるスポーツジム閉鎖の時は汗を流したくてウズウズしたものだが、6月からの再開以降はまた楽しく通わせていただいている。

サウナの中も以前とは違い、感染予防のためにソーシャルディスタンスと、会話を控えることが徹底されている。しかし、そんな中にあっても、小声の「強いな」「難しい球やったのに、よう打ったな」という会話がもれ聞こえてくる。主語など要らない。主語はすべて阪神であることは暗黙の了解なのだ。

そう言えば、1カ月前のサウナの中は「アカンな」しか聞こえてこなかった。小声の会話、いい汗とともに、「サウナー」の楽しみでもある。

 

◆井坂善行(いさか・よしゆき)1955年(昭30)2月22日生まれ。PL学園(硬式野球部)、追手門学院大を経て、77年日刊スポーツ新聞社入社。阪急、阪神、近鉄、パ・リーグキャップ、遊軍記者を担当後、プロ野球デスク。阪神の日本一、近鉄の10・19、南海と阪急の身売りなど、在阪球団の激動期に第一線記者として活躍した。92年大阪・和泉市議選出馬のため退社。市議在任中は市議会議長、近畿市議会議長会会長などを歴任し、05年和泉市長に初当選、1期4年務めた。現在は不動産、経営コンサルタント業。PL学園硬式野球部OB会幹事。