「ラミの奇策」を伏兵の1発で打ち砕いた。入団4年目の巨人松原聖弥外野手(25)が2点リードの2回1死一、二塁、DeNA先発パットンから右翼席上段へプロ初本塁打となる3ランを放り込んだ。岡本が19号2ラン、坂本も11号2ランで続き、2回は打者14人で8安打10得点。今季最多の13得点で5連勝を飾った。貯金は今季最多の17。育成出身の苦労人が、夢に見た東京ドームで主役をかっさらった。

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満員のライトスタンドではなくとも、そこには必死に手拍子をくれる応援団がいた。松原は、パットンの内角150キロの直球をコンパクトに振り抜いた。「逆方向という意識だったんですけど、意識がいい方向に出てうまくインコースも回ることができました」。着弾とともに中堅から右翼方向にかけ、白、深紅、オレンジの応援旗が振られた。

16年育成ドラフト5位から、18年に支配下登録を勝ち取った。大阪から単身東北へ乗り込んだ仙台育英時代、待っていたのは高い壁だった。1学年下には上林(現ソフトバンク)らがおり、補欠に甘んじた。12年夏に甲子園出場も、ベンチ入りメンバーに入れずスタンドから応援。そこで夢を諦めることなく、卒業後は上京し、明星大で野球を続けた。

大学時代には巨人の応援団を志したこともあったが、今はようやくつかみ取った1軍選手として東京ドームでプレー。規定打席未達も打率3割と結果を残す。「他の選手より長い野球人生悔しい思いをしている。見返してやろうという部分はあります」としみじみと言った。

長い雌伏の時をへて、今年ついにブレークを果たした。8月18日のプロ初スタメンからは13試合連続で先発起用された。だが、前日2日には14試合ぶりにスタメンから外れた。早出練習は通常は守備に時間を割くも、この日は打撃練習を行った。そんな姿を原監督は「偶然という意味ではなくてね、僕は必然だと思います。パンチ力も彼はあるしね」と言い、初本塁打をたたえた。

苦難を乗り越え主役となった松原は「いつでもラストチャンス。毎日必死にアピールしようとやっている」。兄はおもしろ荘にも出演した芸人ロングアイランドの松原侑潔。この日はチームの主力にも、兄にも負けないスポットライトを浴びた。【久永壮真】

ロングアイランド松原侑潔 自分は小学生の頃、野球を始めた日に周りの選手を見て、その日の午後にはプロ野球選手になることを諦めましたが、彼は高校時代にベンチ外でも、大学まで諦めず無我夢中で野球に取り組んだ結果、今日のようなたくさんの方に喜んでもらえる日を迎えられたのだと思います。自分が大学生の頃、ある日突然父親の前に三兄弟が集められ「すまん、お前たちの育て方を間違えた。お前たちが会社勤めをしたら人さまの会社に迷惑をかけてしまうので、自分の力でご飯を食べなきゃいけない職業について下さい」と言われ、それぞれ芸人、プロ野球選手、ラーメン屋(来年開業予定)という職業に就きました。職業はバラバラですが、今後とも兄弟3人で切磋琢磨(せっさたくま)できる関係を続けていければと思います。幼い頃から長男の僕だけ野球が下手くそで、弟2人は上手で、周囲の期待がいつも弟たちに向いてることに悔しい思いをしてきましたが、今となっては純粋に活躍をうれしく思います。兄弟格差は開く一方ですが、これを機にバーターのお仕事が増えることを心よりお祈り申し上げます。

◆松原聖弥(まつばら・せいや)1995年(平7)1月26日、大阪府生まれ。仙台育英では3年夏に甲子園出場もベンチ入りせず。首都大学リーグの明星大では5季連続で2部リーグのベストナイン。16年育成ドラフト5位で巨人入団。2年目の18年7月30日に支配下登録。今年7月25日ヤクルト戦で1軍デビューし、初打席初安打。今季推定年俸600万円。173センチ、72キロ。右投げ左打ち。