巨人岩隈久志投手(39)が、今季限りで現役引退する。日米通算170勝。マリナーズ時代の05年にはノーヒットノーランを達成した。日本球界で最も高い制球力を誇る投手として、いかんなく投球術を発揮した。昨年まで巨人担当だった桑原幹久記者が、思い出を振り返る。

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なんだか、うれしそうに映った。昨年5月、2軍戦が行われるジャイアンツ球場。岩隈は三塁側スタンドに腰掛けていた。「みんな若けぇーなって思うよ。ボールが若いよね。もう歳だなって思うよ」。苦笑いしながら、少しだけ声のトーンが上がった。高卒であれば20歳下の選手もいる。WBC、メジャーと世界を知る「テレビの中の人」に恐縮しながら助言を仰ぐ若手選手に「チームメートだから。こっちはそういう感覚はないよ」と真っ正面から熱意に応えた。

頭ごなしに押しつけない。会話するシーンを日頃から見かける、ある若手投手のことを訪ねた。「ちょっと悩んでるよね。ブルペンでもバシバシ投げすぎかな。(疲労を)抜けばすごくキレのある球が出てくると思う」。自らの練習に集中しながら、若手投手の練習内容、取り組み方も目に入れていた。「でも若いからこそ投げられる。僕も投げて感覚を染みこませるタイプ。感覚が大事だから、何も言わないよ」。18歳でプロへ飛び込み、確固たる実績を築き上げた経験を元に、考えを巡らせた。

昨年当時は午前7時半にジャイアンツ球場へ入り、クラブハウス内で1時間のトレーニングが日課。グラウンドでのあいさつを終えると室内練習場へ入り、汗を飛ばしながらネットスローを重ねた。ある日は左で投げ「こっちの方がけっこう投げられるな」と笑った。右肩痛からの復帰を目指し、懸命に心を奮い立たせていた。

記者は昨年末から楽天担当に。球団史を掘れば掘るほど、創設1年目から在籍7年間で65勝を挙げた右腕の偉大さをかみしめる。ジャイアンツ球場で恐る恐る助言を求めた若手投手たちにとっても、岩隈の言葉、背中の大きさをかみしめる時が、きっと来る。【桑原幹久】