巨人の6年ぶり連覇の礎になったチーム編成力。大塚淳弘球団副代表(61)は“全権監督”として指揮する原辰徳監督(62)とともに数々の補強策を推し進めてきた。シーズン中にリーグ最多4件のトレードを成立。楽天から加入したウィーラー、高梨は欠かせない戦力として優勝の立役者になった。選手の飼い殺しをしない方針に転換し、選手発掘、育成に重点を置く体制にシフト。「巨人の2023年計画」と題し、常勝チームを目指す新たな戦略に迫る。

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太陽は高く昇り、梅雨特有の蒸し暑さが続いた6月。同19日からの開幕カード阪神戦で3連勝を飾った直後、大塚球団副代表の携帯電話が鳴った。

着信画面に楽天石井GMの名前が光る。水面下で進められていた推定年俸2億円のウィーラーと1450万円の池田との格差トレード。条件面のすり合わせは、最終局面を迎えていた。

同25日、開幕6試合目の試合前に12球団最速のトレードが発表された。当時ウィーラーは出場機会を逸し、楽天の2軍で調整を続けていた。大塚球団副代表は「力と実績がありながら、ファームで埋もれている選手を徹底的に調査していた」と説明。コロナ禍の今季、調整不足から開幕後にはけが人が続出すると予測。補強の重要性は例年以上に高まると想定し、4月時点で獲得候補として10人ほどをリストアップしていた。

もちろん移籍には、両球団の思惑が複雑に絡み合う。右の大砲を求めた巨人と、左の中継ぎを補強したい楽天。「勝負の世界はスピードが必要。トレードにも時間をかけることはない」。決断の背景には、原監督のぶれない姿勢があった。

「選手起用も作戦も、監督から『考えておく』という言葉を聞いたことがない。判断、決断が速く迷うことがない。常に3歩も5歩も先を考えている。補強も同じ。監督に言われて調査するようでは遅い。現場の状況を把握して、補強ポイントを認識し、必要な時に必要なトレードができる準備をしています。監督の言動から『迷いは疑問』であること知った。迷った末の後悔は、チーム編成にマイナスしかない」

ウィーラー獲得はコロナ禍ならではの事情も重なった。春先から米国でプレーする右の大砲を補強の1番手にリストアップ。巨人の思惑としては8月には1軍でプレーして欲しい。米国からの来日となれば2週間隔離され、その後2週間ファーム調整が必要。7月上旬に来日するために、交渉のデッドラインを6月中に定めたが実現せず、すぐにトレードにかじを切った。

7月14日、再び楽天から高梨を補強。2人の獲得が「足し算」の編成なら、ロッテに送り出した沢村は「引き算」のトレードになった。沢村の推定年俸1億5400万円に対し、プロ通算1本塁打の香月は650万。実績は大きく違った。

大塚球団副代表 監督との共通認識は「選手を飼い殺しにしない」こと。昔は移籍先で活躍すると非難されることがあったが、そんな考えは一切ない。逆に活躍を願っている。12球団は1つの組織。個別の球団が良ければいいという考えではなく、球界が活性化され、選手が生かされるのであれば最高ではないかと。

当初「引き算」と思われた左のスラッガーの加入には、昨季引退した“レジェンド”の後押しがあった。「阿部からも香月はいいですよと」。プロ通算406本塁打の阿部2軍監督は、イースタン・リーグでの対戦時に香月の打撃を見て、可能性を感じた1人だった。この「阿部の目」こそ、アマ選手のスカウティングを含め、今季巨人に加わった大きな武器になっていく。(つづく)【前田祐輔】

◆大塚淳弘(おおつか・あつひろ)1959年(昭34)8月19日、埼玉県生まれ。春日部工から日産ディーゼル(現UDトラックス)を経て、81年ドラフト外で投手として巨人に入団。1軍登板はなく、84年に引退。18年10月から球団副代表編成担当に就任した。