巨人の1軍キャンプ最終日の14日、宮崎は朝から雨だった。宮崎から那覇へと続く1軍切符は、野手で残り10枚。予定していた紅白戦は、生き残りを懸けた運命の一戦だった。プレーボールは午前11時。雨は激しさを増した。開始の約30分前、1軍、2軍、3軍の野手が室内練習場で合同ノックをすることに。紅白戦の中止が事実上、決まった。

午前10時55分。1軍から3軍までの野手29人が、中堅を除く守備位置に散らばった。後藤野手チーフコーチのノックバットからはじかれるボールを追った。アピールの実戦を雨に奪われた悔しさを、声に乗せた。室内練習場の屋根を激しく打つ涙雨の音を消すほどの声が、26分間、響き渡った。原監督は「良かったよね」と目を細めた。

今季のスローガンは「1Team!~和と動」。昨季までは各軍で別れていたが1つにまとめた。「1つになって戦う」「1番を目指す」との願いが込められている。4カ所に分担して実施した春季キャンプ。1軍行きに向けて調整するS班を除き、全軍がそろうのは、この日だけだった。キャンプでは極めて異例だった全軍合同ノックで、今季への思いを共有した。

午後の1カ所打撃では一転、最後のアピールを目指す選手たちの緊張感ある沈黙に包まれた。戸郷は153キロをマーク。岡本和は畠の145キロをしばきあげ、室内ネットがなければ悠々スタンドインという放物線を描き「ホームランです」と自己申告してほほ笑んだ。野手で球界史上最長身2メートルのドラフト5位秋広優人内野手(18=二松学舎大付)は畠の初球を中前へとはじき返した。捕手後方のスタンドから見つめた指揮官は「岡本は統率力も見えたしステップは踏んでいますね。(秋広は)1軍は年齢は関係ないからね。弱肉強食の中で戦うわけですから。その戦いぶりっていうのもしっかり見て、育てていくということでしょうね」と、大きくうなずいた。

14日間の競争を終え、那覇行きのメンバーが決定する。練習後、選考作業について、原監督は「我々の仕事ですからね」と話し、表情を引き締めて続けた。「今はing、進行形です」。

那覇では百戦錬磨の主力たちが待ち受ける。競争はさらにしれつになる。今つかんだ那覇行きの切符は、安住の地へと向かうことを約束したものではない。宮崎残留もまた、終着点ではない。指揮官は「これからはゲームという力試しですからね。練習の姿を信じて力試しをしてもらいたいなと思いますね。紅白戦ではないですから」と、13日間で7試合を予定する那覇での日々を見据えた。激しい生存競争を繰り返しながら、日本一へと続く道を「1Team」で進んでいく。【浜本卓也】