8年ぶりに古巣復帰した楽天田中将大投手(32)が初登板する。相手4番は中田翔内野手(31)。初対戦で本塁打を打たれたが、通算54打数10安打の打率1割8分5厘、1本塁打、3打点と完璧に抑え込んだ。11年前! のプロ初対戦を復刻する。田中は中田のソロによる1失点だけに抑え完投、10勝目を挙げた。(所属、年齢など当時)

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<日本ハム1-7楽天>◇2010年8月8日◇札幌ドーム

右腕を小刻みに震わせ、楽天田中は待ち受けていた。松やにで黒くすすけたヘルメットを目深にかぶり、悠然と中田が来た。最も旬なスラッガーとの公式戦初対戦。4万人が詰まっているにしては異様なほど、札幌ドームは静かになった。

まず貫禄(かんろく)を示したのは田中だった。2回2死、第1打席。内角ツーシームで胸元を起こした。「ぶつけてもいいくらい厳しく、内角を攻めることが大切」と、顔近くの高めにジャブを打った。この2球を伏線とし、3球目から外角低めへ変化球を徹底。最後はフォークボールを振らせる王道の投球で空振り三振を取った。

ドラマは8回にあった。先頭で迎えた3度目の対戦は、第1打席より厳しく、ツーシームで懐を攻めた。捕手嶋は「万全を期して」内角を3球続けた。その3球目。内角高くえぐった141キロを中田は打った。「最後、狙い打たれた感じがする。うまく打たれた」。石橋をたたいて封じる最終段階で、食らったソロ本塁打だった。だが田中は、このポイントゲッターを「中田が打って大量失点につながっていた。その前を特に気をつけた」と注意し、すべて無走者で迎えた。「完封したかったのですが」と悔やんだが2年連続2けた勝利に到達した。

無四球完投勝ちも、質問は中田と対峙(たいじ)した3打席に終始した。田中は「何回聞くんですかぁ…。もう十分でしょう」と笑っていたが「今後に向けいい材料ができた」と、すぐ次回対戦を見た。これから続く名勝負、まずは互角。「楽しみにしていただいて。期待に応えることができたらうれしい」。すべての野球好きと同様、田中自身も再戦を待ち望んだ。

<過去の田中対中田>

◆夏の甲子園(05年8月19日) 準決勝で対戦。駒大苫小牧・田中(2年)は先発し、大阪桐蔭・中田(1年)5番一塁。結果は三ゴロ、三振、中安で3打数1安打。試合は延長10回、駒大苫小牧が6-5で勝利。中田は「先輩ともう少し野球を長くやりたかった」と涙を流した。

◆練習試合(08年2月24日) 高校ドラフト1巡目で日本ハムに入団した中田が楽天との練習試合に6番一塁で出場。前年新人王の田中とのプロ初対決は第1打席は三振、第2打席は四球。中田は「(四球は)僕の勝ちかな。四球も打者の勝ちだと思っているんで。スライダーはちょっとびっくりした」。

<とっておきメモ>

7日の試合中、札幌ドームのスタンドから珍しいリアクションが起こった。翌日の予告先発が大型ビジョンに映し出されると、紹介された敵方の田中を、温かい歓声と拍手が包んだ。

駒大苫小牧高時代の3年間で、道民のハートをわしづかみにした。ベテランの札幌ドーム女性球場職員が懐かしそうに言った。「神宮大会の前、1週間ここで合宿したのよ。駒苫が。いっつも仲間とニコニコしていて、本当に野球が好きなんだなって分かったわね。礼儀正しくて、今でもあいさつしてくれる。マー君を嫌いな人はいませんよ」。その投球だけではない。朗らかさと謙虚さ。田中の人間性が道民とシンクロしている。

札幌でのリーグ戦初完投勝利をファンにプレゼントした。「マウンドに向かうときまで拍手してもらって…。北海道は僕にとって特別な場所。これからも、です」。あのころと何も変わっていない。プロ野球選手はお盆に帰省などできないが、こんな里帰りができる。【宮下敬至】