テルがやりやすいように、僕が-。阪神大山悠輔内野手(26)の進化を追う日刊スポーツ独占企画「比べるのは昨日の自分」がスタートします。第1回のテーマは「主将論」。今季から新キャプテンに就任した4番打者は驚くほど勝利を渇望。全国の野球ファンから注目を浴びるドラフト1位佐藤輝明内野手(22=近大)への思いも、包み隠すことなく明かした。【取材・構成=佐井陽介】

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大山は2年前の19年3月29日、「開幕4番」を初体験している。京セラドーム大阪でのヤクルト戦。結果は4打数1安打だった。当時はプロ3年目。「やっぱりプレッシャーはありました。4番というところもありましたし」。あれから2年。再び4番スタメンを任されるであろう今季の開幕戦に向けて、今度はまた違った感情が芽生えている。

「今年は…こんなことを言っていいのか分からないですけど、正直、4番というのはどうでもいい気持ちがあるんです。『自分が4番』というよりも、勝てればいいと思っています。どうしても周りの方々は4番だったり、そういうところに注目する。でも正直、今年からキャプテンという立場になって、考え方に変化が出ています。去年までは自分の立場を確保しないといけなかったところもあって『4番が4番が』と言ってきたけど、今年は本当に勝ちたい、勝てれば何でもいいという考え方に変わってきている。最終的に1点でも多く取って勝ちたいという感情が強いです」

昨季は28本塁打、85打点でタイトルを争った。今季は新主将に就任。2月のキャンプ中から言動、行動にリーダーの自覚がにじみ出るようになった。「4番三塁」に固執しても許される立場なのに、ドラフト1位佐藤輝が外野だけでなく学生時代に本職だった三塁も守り始めると、自ら一塁守備練習にも取り組んだ。

「もちろん、選手として去年1年間しっかりできたプライドもあります。ゼロではないです。プロ野球選手は個人事業主としてやっている部分もあるし、自分の成績を残さないと、この世界では生きていけない。でも、やっぱり『勝ちたい』が最初に来る。去年までは試合終盤に一塁に回るケースが多かった。今年はどうなるか分からないけど、可能性がゼロでないのであれば練習しないといけない。簡単なポジションではないことは経験して分かっている。準備の大切さは去年1年間で改めて分かっているし、しっかり準備しておこうということです」

個人事業主でもあるプロ野球選手と、時には自分を犠牲にしてでもチームを束ねる主将。相反するはずの立場を懸命に両立させる努力に、仲間が気づかない訳がない。今春はドラ1佐藤輝が周囲の想定を超えるペースでアーチをかけ続け、全国的に注目を集めた。ポジションがかぶりかねない後輩の大活躍も、心の底から喜べる度量が頼もしい。

「ただただ、うれしいです。すごいなと思う部分もあるし、チーム全体を考えても若い選手に結果が出ることは絶対にプラスになりますしね。僕自身もしっかりやらないといけない、先輩として負けたくないという気持ちになる。そこで競い合うこともプラスになると思う。これが敵チームの選手だったらまた違うと思いますけど、同じチームでやる以上は一緒に頑張っていかないといけない。後輩に負けたくないという気持ちはしっかり持たないといけないけれど、若い選手が打って勝てるのであれば、それは喜ばしいこと」

とはいえ、佐藤輝はまだプロ1年目。大山は主将として、4番として、注目ルーキーの分までチームの勝敗を背負う覚悟でいる。

「そういう気持ちはもちろんあります。今はあれだけ注目されているけど、やっぱりいい意味で怖いもの知らずで行ってもらいたいので。そのためには自分がしっかり結果を残していないと、テルにとってやりやすい環境ではなくなってしまう可能性もある。テルが自分の好きなようにやってもらうためにも、自分がもっとしっかりしなければいけない。周りで助け合うというか、チーム全体としてそういう環境をつくってあげたいと思っています」

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