<ロッテ8-5ソフトバンク>◇25日◇ZOZOマリン

ロッテのドラフト1位・鈴木昭汰投手(22=法大)が5度目の登板、5度目の好投で、プロ1勝目をつかんだ。前日に19安打のソフトバンク打線を、7回途中2失点に抑え込んだ。東京6大学リーグで競った楽天早川の「外れ1位」でロッテ入りしたパワフル左腕は、早川と互角の投球を続け、すでにロッテに不可欠な存在になった。

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鈴木は決して、注目度の高いドラフト1位投手ではなかったかもしれない。象徴的なシーンがあった。今年2月23日、宮崎・清武。オリックスとの練習試合の前に、ブルペンで約40球を投げた。

横に広い豪華なブルペンは静かな空間だった。見守るのは吉井投手コーチとスタッフ数人、他球団スコアラー3人と、報道陣が2人。全部で10人もいない。30メートル近く先にいる鈴木が「直球で」「次はツーシーム」と発する声が明瞭に聞こえる。豊かな球威が佐藤都のミットをたたく音だけが静寂を切り裂いた。

そのちょうど1年前は、ミット音がけたたましいシャッター音にかき消された。19年ドラフト1位、最速163キロ右腕の佐々木朗希投手(当時18)が、鈴木と同じ場所で投げていた。プロ入り後初めて、18・44メートルの距離で捕手が座っての投球。球団・球界関係者、報道陣は100人を超えていた。投げながら、視線のやり場もなかったことだろう。「朗希フィーバー」の真っただ中だった。

コロナ禍とはいえ、同じロッテのドラフト1位が見た景色はまるで違った。鈴木は「去年は朗希が入った分、やっぱりそれはもちろん、まあ、しょうがないことも…しょうがないと思いますけど」と言葉を選びながら話した。自分は自分。目立たずとも、開幕から逆算し丁寧に作っていた。

ブルペン投球が終盤に差しかかると、なぜか鈴木と目が合い始めた。しかも少し笑っている。えっ? と戸惑った。理由はすぐ分かった。私の後ろに誰かが来て、会話を始めた。「あいつ、友達なんです。小さい頃からずっと一緒で」。

振り返り、視線の真の行き先を知った。オリックスの育成ドラフト5位・佐野如一外野手(22=仙台大)がいた。同じ茨城・土浦で育ち、地元に帰ればいつも一緒にいて、けんかも50回は下らないという親友だ。互いを知り尽くす。鈴木は昨年末に「すごい選手です。絶対に支配下になります」と確信していた。予言通り、佐野はすでに支配下選手登録されている。

孤独なブルペンも、友が見ていてくれれば1人じゃない。「僕らが活躍することで、いろいろな人が喜んでくれる」と恩返しを誓う。スタートの華やかさは早川や佐々木朗に及ばずとも、自分たちの腕で世界を広げていけば、応援の声はどんどん増える。まずはZOZOマリンに集った今季最多1万1370人に、鈴木昭汰の名を強く示した。【ロッテ担当=金子真仁】