代理人ジョー・スロバから球団に連絡が入ったのは、再来日を2日後に控えた2月20日、夜のことだった。「マイクは日本での練習中に背中を痛めた。主治医に3月5日まで旅行を控えるよう診断された」。

代理人はとうとうと、グリーンウェルが勇んでシートノックに参加したキャンプ5日目に発症したと訴えた。その日は予想以上に体が動くことから、外野の両翼を走りながら最後に飛球を捕る練習にも加わっていた。この日本式の練習が「アメリカンノック」と呼ばれると知り「大陸を横断するからアメリカン? ナンセンス。米国ではこんな練習はしないからこれはチャイニーズノックだろう」などと笑顔で軽口をたたいていたのだが…。

「それほどだったとは」。体の張りや疲労は認めていた球団だが、渡航不可能という通知に首をかしげた。11日までの意欲的なキャンプ姿を思えば思うほど、疑心暗鬼になった。一方的に、メドの立たない来日延期を告げながら、診断書や検査画像などの送付はない。95年にダイエーとトラブルになったケビン・ミッチェルと同じ代理人の存在が疑念に拍車をかけた。

グリーンウェルの自宅から15キロ、フロリダ州フォートマイヤーズでキャンプを張る古巣レッドソックスではこんなうわさまでささやかれた。「マイクが戻ってきているって。そらどこかのメジャー球団からオファーが来ているんじゃないのか」。

らちが明かない状況に阪神は前年12月の契約に同行した渉外担当山縣修作をグリーンウェルの元に派遣した。代理人抜きで関係を構築し、正確な情報を把握するのが狙いだった。

いつ来るのか、いや、このまま来ないのでは。日本をヤキモキさせた混迷は予期せぬ形で収束していく。早期の担当者派遣が功を奏したのか、グリーンウェルは「開幕は無理だが、4月の下旬には戻りたい。そしてすぐにプレーしたい」と言い出した。最大6週間のリハビリを復帰の絶対条件とした代理人のアピールよりも早い再来日を選手本人が望んだのだ。

なぜ、4月下旬だったのか。「日本で5月5日はこどもの日、なんだろう。その日は期待してくれた子どもたちを喜ばせたいんだ」。トレーシー夫人との結婚記念日にこだわって日本を離れた助っ人は、ファミリーを想起させる日本の祝日にも重みを感じていた。長男ボー、次男ギャレットと2児の父。メジャーリーガーのプライド以上に、家庭人としての誇りが、再来日を急がせた。【町田達彦】(敬称略、つづく)

◆一時帰国時の混迷 球団に再来日延期を告げながらMRIなど精密検査の結果は伝えず、臆測を呼んだ。自宅を張り込み、家族を直撃する日本メディアの取材に「このままなら訴えることもある」と激怒して騒ぎになった。阪神が指定する医師(デトロイト・タイガースのドクター)の所見は軽症ながら、あくまで主治医(J・ケーガン医師)から完治のお墨付きをもらうまではと再三、休暇延長を申請。ステロイド注射をうつか否かなど治療法でも主張を二転三転させ、復帰時期が定まらなかった。