日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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プロ野球、Jリーグの入場システムが新局面に入ってくる。政府は緊急事態宣言を延長する一方、ワクチン接種を条件とした行動制限の緩和、社会経済活動の正常化を目指すと表明したことで議論は加速する。

ワクチンパスポート(接種証明)は早くから経団連が提言してきたが、プロ野球のソフトバンクが9月2日の楽天戦から、日本プロスポーツ興行で初の試みとして条件付き有観客を導入した。

ソフトバンクは「ワクチン2回接種済み」「観戦日1週間以内のPCR検査結果が陰性」のいずれかを満たした人に限定し、上限5000人でチケット販売に踏み切った。宣言延長で9月末まで継続される。

プロスポーツ開催を注視する政府幹部は「福岡の緊急事態宣言を受けた形であくまでも国のルール内で行われた。コストはかかったと思うが、現時点で円滑に開催されていると受け止めている」と語った。

ソフトバンクでは大規模イベントの集客5000人ルールの際も、会社の方針として無観客にした時期もあった。また今回もPCR検査を無料提供するなど独自路線の取り組みを続けている。

しかし、ソフトバンクだけが先行する構図には違和感がある。新型コロナ対策は全12球団が一貫性をもって取り組むべきだ。この点、NPB(日本野球機構)コミッショナーの斎藤惇は政府の運用指針が決まることが前提と反応した。

「12球団が一定のルールでやるからには政治的なバックアップがないと動けない。興行権は球団がもっているので、自分のリスクでおやりになるんでしょうが、よほどルールから外れていれば問題にするが、慎重にやっているので様子をみたい」

ワクチンパスポート導入も、本人確認の手段が不明のケース、未接種者への不利益、差別などさまざまな問題を抱える。接種を終えていない選手がいるのに入場者に義務づけるのはいかがなものかといった声もある。

「ワクチン接種していない人にPCR検査のセットを送るなど案もあったが手間がかかる。現場で抗体検査をしてもらうにはスペースも必要だから難しい。最終戦までにとは考えているが慎重になっている」(政府関係者)

新型コロナウイルスの対処、対策には、プロ・アマ間にも大きな差がある。同じ野球なのに…。ポストコロナの時代にも予期せぬ事態が起こりかねない。野球界が1つになることは喫緊の課題だ。(敬称略)