これが虎の土壇場力や! 今季レギューラーシーズン最後の「伝統の一戦」は息詰まる投手戦が続いた。0-0の9回2死、あと1死で阪神の勝ちがなくなる場面で、板山祐太郎外野手(27)が決勝の適時二塁打。代走で途中出場した伏兵の3年ぶりの打点で巨人に競り勝った。引き分けた首位ヤクルトのマジックは7。逆転Vの望みをつなぐには勝ち続けるしかない阪神にとって、意味のある1勝だ。

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板山は心の中で祈った。「越えてくれ!」。祈りが届くように、打球は右翼フェンスのさらに上、黄色いバー部分を直撃。0が並んだスコアボードにようやく「1」を刻み、二塁ベース上で右拳を激しく振りかざした。

「遥人が頑張って投げていたので捨て身で、気持ちで食らいつくことしか考えていなかった」

マウンドを降りた亜大の2学年後輩、高橋もベンチで祈っていた。9回2死一、二塁。ビエイラの3球目、内角145キロスライダーを仕留めた。同じく亜大の1学年後輩の木浪が2点適時打で続き「(2人に比べて)自分は何してるんだろうという気持ちもありました。その中でこういうバッティングができて本当にうれしい」。意地を込めた決勝の適時二塁打だった。

9月18日。2軍戦が中止になると、ナゴヤ球場の室内練習場でバドミントンのシャトルを打ち込んだ。軽いシャトルは引きつけて、強いスイングをしないと飛距離が出ない。「限られている場所でもできると思って」と自腹購入。遠征時はホテルの駐車場でもシャトル打ちに励んだ。

「苦しい時もありましたけど、諦めたら終わりだと思って、日々支えてくれる人に恩返しできるようにと思ってやっていた」。前日13日に1軍昇格。大仕事の裏には、大粒の汗がある。

2軍監督時代、鳴尾浜球場でその姿を見てきた矢野監督は、満面の笑みでベンチで迎えた。「どんな状況でも腐らずファームで必死にやっていたんでね。板山にこの打席任せていいんじゃないか」と代打を送らず信じた。当時は4番起用を続けた愛弟子の活躍に「この日のために1年間振ってきたわけやし。気持ちの部分で熱くなるのはあるよね」と目を細めた。

諦めない男の一打で勝ち越し、逆転優勝へ踏みとどまった。阪神が勝っても、ヤクルトはマジックを1つ減らして7。ヒーローインタビューで板山は、チームの総意を代弁した。

「誰1人、諦めている人間はいないと思うので、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います!」

不屈の虎が、必死でツバメの背中を追う。【中野椋】

◆板山祐太郎(いたやま・ゆうたろう)1994年(平6)3月27日生まれ、神奈川県出身。成立学園-亜大を経て15年ドラフト6位で阪神入団。16年4月22日広島戦で1軍初出場。180センチ、80キロ。右投げ左打ち。今季推定年俸800万円。