その瞬間、確かに球場の雰囲気は変わった。試合前のスタメン発表。

「9番ライトフィールダー、坂口智隆」のアナウンスが響くと、両チームのファンから拍手が起こった。

第1戦ではベンチ外だった坂口が、シーズン中の9月25日、中日戦(神宮)以来のスタメン出場を果たした。打順は9番。試合前の練習では、シーズン中にほとんどしないバント練習を行う姿もあった。

近鉄、オリックスでプレーし、坂口にとっても、ファンにとっても思い出の多い球場だ。それは、いい思い出ばかりではない。19年シーズンの開幕カード阪神戦が行われたのも、ここ。3月31日の3戦目、第4打席で右手親指に死球を受け、骨折した。打撃グローブが脱げないほどの痛み。やっとの思いで外すと、手は真っ赤に染まっていたという。5月以降、一時は復帰したものの完治はしておらず、6月上旬に再び登録抹消。2軍生活が続いた。実はこの日、右翼手のポジションにつく際にも、右手親指から手首にかけてテーピングでぐるぐる巻きにされていた。

その場所で行われた日本シリーズで、安打を放った。6回1死、西浦が外角変化球をとらえてチーム初安打となる中前打を放った。続く坂口はファウルで粘り、フルカウントからの8球目、見逃せばボールになりそうな外角低めの139キロにバットをうまく合わせ、左前に流し打ち。ベテランの一打で、オリックス宮城から初めてのチャンスをつくった。得点にはつながらなかったが、確実に存在感を見せた。

今シーズンの打率は1割6分と苦しんだが、左投手に対しては18打数4安打の打率2割2分2厘と好相性。ベテランの技が、日本シリーズという大舞台で必要になる。【保坂恭子】

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