元独立リーガーの小学校の先生が、思わぬ形で日本代表の座を手にした。

ダイヤモンド型新スポーツ「ベースボール5(ファイブ)」の日本代表決定戦が17日、都内で開催。優勝した東京ヴェルディ・バンバータが、8月に行われる第1回アジアカップ(マレーシア)に日本代表として出場することが決まった。

ところが、同チームに、ワクチン接種に関するアジアカップ参加規約(入国までに3回接種済み)に抵触する選手がいることが判明。派遣元である全日本野球協会(BFJ)が協議の結果、派遣条件に基づき、準優勝だった5STARsを日本代表とした。

5STARsのキャプテンは、昨年までBC埼玉で外野手としてプレーした宮之原健(たける)さん(29)。高校は名門・日大三(西東京)で、11年夏の甲子園に控え選手として出場。日本一に輝いた。卒業後は東学大、BC福島、埼玉でプレーを続け、昨季限りで引退した。

引退のタイミングで、独立リーグ時代に面識のあった西武ライオンズ・レディースの六角彩子選手に誘われ、ベースボール5を始めた。六角選手は日本唯一のベースボール5公認インストラクター。5STARsでともにプレーする。

宮之原さんは大学時代に教員免許を取得。今年から都内の小学校で2年生の担任を務めている。仕事を終え、帰宅するのは夜8時、9時になることも。そこから、近所の公園で家族にゴロを転がしてもらうなどして、自主トレを続けた。ジムにも通い「必要そうな筋肉を鍛えました。肩甲骨周りの柔らかさ、強さ、お尻や太もも回りの強さが大事だと思います。瞬発力は野球以上に大事かも知れない。スピード感を取り入れています」と、スピーディーな競技にあわせたトレーニングを積んだ。

軟式も含めた野球経験者で構成される5STARs。チームみんなで集まれるのは、週末に限られる。体育館の脇でチームプレーを磨いた。

タレントの稲村亜美(26)だけでなく、現役Vリーガーやソフトボール元日本代表も擁する東京ヴェルディ・バンバータとの決勝(5イニング制)は熱戦だった。先攻の5STARsが初回に2点を先制するも、その裏、すぐに追いつかれる。3回に1点を勝ち越され、その後は互いに点を奪えず、2-3で敗れた。

試合後、宮之原さんは「打球が力強かった。足元に打ってきて、こちらはゴロに反応できなかったです」と相手の実力をたたえた。今後については「本気で続けていけるのか、どうか…」と言葉を濁していた。仕事の合間を縫って最大限の力を振り絞って臨んでいただけに、すぐには考えられない様子だった。

それから2日後。思わぬ形で日本代表となった。

ベースボール5の魅力を、宮之原さんは「ボール1個でできる。野球はバットを持って、空振りがあって、初心者は難しいと思う。ベースボール5は自分発信なんで。素人でも、子どもでも、年配の人でも楽しくできるのが魅力。運動をしたことがない人でも一緒にやれる」と語る。独立リーグ時代、地域のファンとの交流を大事にしてきた。今後も、ベースボール5を通じて、多くの人にスポーツの楽しみを伝えたい思いを持っている。【古川真弥】

 

◆ベースボール5 17年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が野球・ソフトボール振興の一環として発表した新スポーツ。もともとはキューバの町中で遊ばれていた手打ち野球が原点だが、アフリカなど野球設備や道具が不足している地域でもダイヤモンド型スポーツを理解してもらうための普及活動としてプレーされている。22年ダカールユースオリンピック(26年に延期)の公式種目に追加された。

基本的なルールは野球・ソフトボールと同じだが、投手が存在せず、打者は自分でトスを上げて手で軟らかいボールを放つ。フェンスオーバーやフェンス直撃の打球はアウトとなるため、力自慢のスラッガーだけでは苦戦を強いられる。1イニング3アウトの5イニング制。選手登録は8人まで(控え3人)で、必ず男女混合にしないといけない。フェアゾーンは一辺が18メートルの正方形で塁間は13メートル。ボールは84・80グラム(NPB公式球は141・7グラム~148・8グラム)の天然ゴム100%。野球と同じ内野の4ポジションのほか、二塁ベース付近を守る中間守備(ミッドフィルダー)が存在する。バッターボックスは一辺3メートルの正方形で、助走を付けて打つことができる(バウンドするまでに足が出るとアウト)。ファウルや空振りは1度でアウト。走者はリード禁止。展開がスピーディーで、早ければ1試合20分ほどで終わる。

日本では、全日本野球協会(BFJ)と日本ソフトボール協会(JSA)が合同で「Baseball5 JAPAN」を立ち上げ、公式事業を進めている。