この2年間、スカウトといろんな雑談をした。「みんなが同じ女性にほれないよね。それと一緒だよ」。ドラフトは眼力がモノを言う世界だ。目利きで勝負する男のプライドのように聞こえた。言い得て妙のたとえを思い出したのは、理由がある。20日のドラフト。高校通算68本塁打の高松商・浅野翔吾外野手(3年)は巨人が阪神と競合の末、抽選で1位指名した。ある光景が脳裏をよぎった。
9月、フロリダで行われたU18W杯。浅野も出場する試合のライブ中継を見ていて、客席が映った。白いマスクをつけて、長袖のシャツを着た男性が座っていた。アメリカの人たちはマスクをしていない。だから余計に目立った。すぐに巨人の岸敬祐スカウトだと分かった。渡米視察したのは12球団で巨人だけだった。
10月、栃木・宇都宮の国体にも姿を見せた。「よく分かりましたね」。品薄のチケットを入手したのだろう。「手首のケガがどうかと思って。問題なくやれている」と目を細めた。U18W杯の守備で負傷した左手首の様子を気にかけていた。「バットが内から出てくる。早いうちから1軍の戦力になっていける」。2年のころから注目していた。浅野のいるところ、岸スカウトあり。9月28日の指名公表後も密着し続けた。
浅野と巨人は、運命の赤い糸で結ばれていた。この夏、そう思わせるエピソードに触れた。7月17日の香川大会藤井戦。1点リードの2回2死一、二塁で打席を迎えたが、申告故意四球で歩かされた。満塁にするリスクを背負ってまで相手は勝負を避けた。長尾健司監督(52)も「向こうも勢いをつけさせたくないから」と言う。打ち気をそぐ戦術は、ときに空回りを誘う。平然と一塁に歩く姿は、成長の証しだった。
昨年は違った。3月の県大会。敬遠に不満をあらわにして長尾監督に叱られた。見かねた指揮官は、智弁学園(奈良)の大砲だった岡本和真の逸話を浅野に言い聞かせた。
「ジャイアンツの岡本選手も高校のころ、すごく顔に出していたけど、小坂監督が、松井秀喜さんの5連続敬遠のビデオを見せた。全部バットをそっと置いて一塁に走ったんだ。バットを投げることなく。そのシーンを見せて、岡本選手に『これがプロの一流の選手だ。お前は一流じゃない』と言ったんだよ」
大砲だけが通る道がある。浅野は奇遇にも、巨人のスーパースターに君臨した松井秀喜の思考と、いま、主軸で活躍する岡本の軌跡に触れていた。おのずと振る舞いも変わっていった。
「1打席の敬遠で顔に出ているようではまだまだ。勝負してもらえる打席があるだけ、ありがたい」
阪神もまた浅野を高く評価し、球団幹部も何度も視察するなど熱意を見せていた。両球団ともに人事を尽くして浅野を待った。ドラフト1位を巡る、初のTG一騎打ち。さまざまな思いが交錯し、見えないなにかに導かれるようにして、浅野はプロのスタートラインに立った。【酒井俊作】



