元阪神、ロッテの鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)が「守備」をテーマに語り尽くした。現役時代は三井ゴールデン・グラブ賞を5度獲得。当時のライバルや裏話、気になる若手、日本人内野手の現在地と未来など、守りにまつわる本音の数々を明かした。【取材=佐井陽介】

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<遊撃の名手>

鳥谷氏には、三井ゴールデン・グラブ賞にまつわるホロ苦い思い出がある。セ・リーグトップの守備率9割9分を記録した09年シーズンを終えた秋の記憶だ。

鳥谷氏 三井ゴールデン・グラブ賞はプロ野球で唯一、守備の評価でもらえる賞。なんとか取りたいという思いは、入団時からかなり強くありました。09年は井端弘和さんが8失策で自分が7失策。もしかしたらチャンスがあるかなと思った中で取れなくて…。

遊撃手の名手といえば、真っ先に中日井端弘和の名前が挙がった時代。事実、井端は04~09年まで6年連続でセ・リーグ遊撃部門の三井ゴールデン・グラブ賞を受賞している。鳥谷氏にとっては分厚すぎる壁だった。

鳥谷氏 井端さんを越えるには、もう試合に出ないでもらうしかないぐらいで…(笑い)。当時は二塁手の荒木雅博さんとの「アライバ」も有名で、コンビでも完成度の高いプレーをされていましたからね。記録員の方も名手と知られている選手とそうでない選手とでは、同じプレー1つにしてもエラーにするのかヒットにするのかで、迷った時には感情が入ってしまうかもしれない。そういう意味でも、うまいと認知されるまでは取るのが非常に難しい賞だと思っていました。でも、後に井端さんから話を聞いたら、井端さんにも宮本慎也さんという高い壁があったんですよね。

中日井端が台頭する以前、セ・リーグ遊撃部門の常連はヤクルト宮本慎也だった。97~03年の7年間のうち受賞が6度。名手は皆、懸命に壁を乗り越えて三井ゴールデン・グラブ賞にたどり着いている。

鳥谷氏 同じぐらいの成績では壁を越えられない。それでもなんとか踏ん張って継続的に成績を残した先に賞がある。実は09年に悔しい思いをした翌年の10年は広島の梵英心さんが受賞しています。梵さんは自分と1学年しか違わない先輩。同年代にまた壁を作ることだけは避けなければと、11年はもう必死でした。それだけに11年の初受賞はやっぱり思い出深いですね。

12年は二塁から遊撃に戻った井端に再び敗れたが、鳥谷氏は13年から3年連続で遊撃部門に選ばれている。そして、次に鳥谷敬という壁を乗り越えたのが巨人坂本勇人だった。高い壁が新たな名手を育てていく歴史は、きっと今後も塗り替えられていくのだろう。

鳥谷氏 最近で言えば、セ・リーグ二塁部門は広島菊池涼介選手がいて、他の選手の受賞は非常に難しい状況です。年齢が近いヤクルト山田哲人選手は同年代に高い壁があって本当に大変だと思います。でも壁があるからこそ技術の向上を考えたり、その人にはないプレーをしようという発想も生まれる。ライバル関係は能力の向上につながるはずなので、貪欲に壁を乗り越えにかかる選手が1人でも多くなってほしいですね。

◆三井ゴールデン・グラブ賞(提供=三井広報委員会) プロの技術でファンを魅了し、シーズンを通して卓越した守備力によりチームに貢献した選手を表彰する。選出方法は各メディアのプロ野球担当として5年以上の経験を持つ記者の投票。セ・リーグ、パ・リーグの各ポジションから9人を選出する。同賞は、1972年に制定され、1986年に現在の名称「三井ゴールデン・グラブ賞」となった。

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日生まれ、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大から03年ドラフト自由枠で阪神入団。04年9月からの1939試合連続出場はプロ野球歴代2位。667試合連続フルイニング出場は遊撃手記録。19年オフに阪神を退団し、ロッテで2年間プレー。21年限りで現役引退。13年WBC日本代表。ベストナイン6度、三井ゴールデン・グラブ賞5度(遊撃4度、三塁1度)。通算成績は2243試合、2099安打、138本塁打、830打点、打率2割7分8厘。