元阪神、ロッテの鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)が「守備」をテーマに語り尽くした。現役時代は三井ゴールデン・グラブ賞を5度獲得。当時のライバルや裏話、気になる若手、日本人内野手の現在地と未来など、守りにまつわる本音の数々を明かした。【取材=佐井陽介】

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<土のグラウンド>

宮本慎也に井端弘和、梵英心に鳥谷敬、坂本勇人…。00年代以降の三井ゴールデン・グラブ賞を振り返ると、セ・リーグ遊撃部門は玄人受けする堅実派が名を連ねる。鳥谷氏はその理由を独自の視点で分析する。

鳥谷氏 セ・リーグには内野部分が土のグラウンドを本拠地とするチームが2球団あります。広島市民球場、マツダスタジアムのカープと、甲子園のタイガース。堅実にいかないとミスも出やすいグラウンドでプレーする比率が多いから、そういう選手が多かったんじゃないかと思います。

土のグラウンドは手ごわい。土が掘れてバウンドが変わるのは日常茶飯事。強風で上部の柔らかい土が持っていかれると、打球のスピードが変わる。飛び散った土が指先について、送球の際にボールが滑ることもある。中でも一番の違いは「足の使い方」だという。

鳥谷氏 人工芝は打球が速く来るけど、土は足を使ってボールを追っていかないといけない。土の場合はわざと足を滑らせたりもするけど、人工芝ではどうやってストップさせるかを考えたり…。相手チームの選手も甲子園でプレーするし、本拠地が甲子園であることを不利に感じたことはありません。ただ、土のグラウンドで三井ゴールデン・グラブ賞を取る価値の高さは自分自身、感じていたかもしれません。

甲子園を本拠地とした阪神時代は常に脱力を心掛けた。「バウンドが合わない時は焦って体に力が入る。硬くなった体に打球が当たると、ボールは大きく跳ねてしまう。そんな時にどれだけ力を抜けるか」。時に不規則な打球も飛んでくる土のグラウンドで磨き続けた技術はその後、プロ18年間の確かな礎となった。

鳥谷氏 もちろん、一番大事な役割は正面に飛んできた打球を当たり前にアウトにすること。その中で印象深いプレーを1つ挙げるとすれば、京セラドーム大阪の広島戦で、梵さんの難しい打球をアウトにできたプレーですかね。センター方向へのハーフバウンドで、顔の方に上がってきた打球。それを捕球して回転して一塁に投げられたプレーです。どんなゴロも捕球するだけではアウトにできない。捕球後に投げることも考えて、たとえどんな体勢で捕球したとしてもしっかり投げられるようにとはずっと考えていました。一塁が見えない体勢で捕球した時にも、一塁の場所をイメージできるようにする練習もしていました。普段からいろんな練習をしてきた中、たまたま良い反応ができて、しかも回転して投げられた。あのプレーはすごく印象的でしたね。

◆三井ゴールデン・グラブ賞(提供=三井広報委員会) プロの技術でファンを魅了し、シーズンを通して卓越した守備力によりチームに貢献した選手を表彰する。選出方法は各メディアのプロ野球担当として5年以上の経験を持つ記者の投票。セ・リーグ、パ・リーグの各ポジションから9人を選出する。同賞は、1972年に制定され、1986年に現在の名称「三井ゴールデン・グラブ賞」となった。

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日生まれ、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大から03年ドラフト自由枠で阪神入団。04年9月からの1939試合連続出場はプロ野球歴代2位。667試合連続フルイニング出場は遊撃手記録。19年オフに阪神を退団し、ロッテで2年間プレー。21年限りで現役引退。13年WBC日本代表。ベストナイン6度、三井ゴールデン・グラブ賞5度(遊撃4度、三塁1度)。通算成績は2243試合、2099安打、138本塁打、830打点、打率2割7分8厘。