元阪神、ロッテの鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)が「守備」をテーマに語り尽くした。現役時代は三井ゴールデン・グラブ賞を5度獲得。当時のライバルや裏話、気になる若手、日本人内野手の現在地と未来など、守りにまつわる本音の数々を明かした。【取材=佐井陽介】

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<反応遅らせ半身>

鳥谷氏は17年、遊撃から転向した三塁でも三井ゴールデン・グラブ賞を獲得している。不調に苦しんだ16年からの華麗なる復活は注目を浴びたが、開幕当初は通算5度目の同賞受賞など想像すらできなかったという。

鳥谷氏 三塁守備は決して上手ではありませんでした。前年に苦しんだこともあって、打たないとレギュラーポジションが失われる状況でのコンバート。最初は三塁に来る打球スピードや体の向きにかなり苦しみました。そんな時、野球評論家をされていた宮本慎也さんと話をさせてもらえる機会があって、貴重なアドバイスをいただけたことで課題を克服できたんです。

宮本は遊撃部門で三井ゴールデン・グラブ賞を6度受賞した後、三塁部門でも09年から4年連続受賞を達成している。同じ流れでコンバートされた名手からの提案は驚くほど的確だった。

鳥谷氏 宮本さんは「わざと反応を1歩遅らせていた。あとは正面で捕らずに全部半身で捕っていた」と。それを聞いてからミスがグッと減りました。ショートは打った瞬間に反応する。でもサードだと打った瞬間に反応していたら、絶対に打球を通り越してしまう。だから、わざとワンテンポ遅らせてスタートを切っていた、と。そんな助言をもとに練習してみたら、見え方が一気に変わって…。だからサードでの三井ゴールデン・グラブ賞は宮本さんのおかげでもあるんです。

当時の宮本のように、希代の名手たちはいつだって後進の育成に力を貸したくなるものなのかもしれない。もちろん、鳥谷氏もその1人。名手への成長を期待するプレーヤーの動画チェックには、ついつい時間を割いてしまうそうだ。

鳥谷氏 今注目している若手で言えば、まずはロッテでチームメートだった小川龍成選手。捕球から送球までの流れがすごくスムーズでスピードもある。まだ高卒2年目になるところですけど、西武の滝沢夏央選手も捕球技術、送球の強さ、スピード感がある。これから「捕る投げる」を一連の動作としてできるようになれば、かなり高いレベルの守備力を出せるのではないでしょうか。それに滝沢選手はボールとの距離の取り方が非常にうまい。これは教えてできることではなく感覚。この感覚を19歳で持っているのだから今後が楽しみです。

セ・リーグでは2連覇を果たしたヤクルトの長岡秀樹にも注目している。

鳥谷氏 長岡選手には安定感がある。肩や足がズバ抜けているわけではないけど、1年間ショートを守り抜けた自信は後々かなり大きな力になるはずです。1年間戦った上で、足りなかった部分、もっとレベルアップしていける部分を知れたことは大きな財産。この経験を生かして、さらに技術がアップしていくんじゃないかと期待しています。

◆三井ゴールデン・グラブ賞(提供=三井広報委員会) プロの技術でファンを魅了し、シーズンを通して卓越した守備力によりチームに貢献した選手を表彰する。選出方法は各メディアのプロ野球担当として5年以上の経験を持つ記者の投票。セ・リーグ、パ・リーグの各ポジションから9人を選出する。同賞は、1972年に制定され、1986年に現在の名称「三井ゴールデン・グラブ賞」となった。

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日生まれ、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大から03年ドラフト自由枠で阪神入団。04年9月からの1939試合連続出場はプロ野球歴代2位。667試合連続フルイニング出場は遊撃手記録。19年オフに阪神を退団し、ロッテで2年間プレー。21年限りで現役引退。13年WBC日本代表。ベストナイン6度、三井ゴールデン・グラブ賞5度(遊撃4度、三塁1度)。通算成績は2243試合、2099安打、138本塁打、830打点、打率2割7分8厘。