春、大学選手権準優勝の上武大(関東5連盟第1代表)が1発に泣いた。

初戦の大舞台を任された井手海翔投手(1年=佐久長聖)が3回まで1安打無失点に抑えていたが、0-0の4回1死、相手4番で大学日本代表にも選ばれた野口泰司捕手(4年=栄徳)に決勝のソロ本塁打を許した。リードした進藤勇也捕手(3年=筑陽学園)は「カウントを取りにいった変化球が甘く入り打たれた。サインを出した自分の責任。悔しい…」。ぼうぜんと宙を見つめながら、言葉を振り絞った。

再三の好機にもあと1本が出ず。進藤も4打数2三振。「打たないと、という気持ちが強すぎて…1点が遠かった。悔しいです…」と、肩を落とした。

今春、大学野球選手権では決勝戦で亜大に1-7と大敗。準優勝に終わった。進藤は「何もできない、何もさせてもらえなかった」。あと1歩で届かなかった日本一へ。何が足りなかったのかを追い求めた。「監督さんはいつも『選手主体で』と話していた。果たして、それができていたのか。部員約200人。同じ方向を向いていなかったと思う」。

春、大学日本代表のオランダ遠征から戻ると、主将に任命された。「いずれはと思っていたんですが。まだ4年生もいる中での主将。めちゃくちゃ不安でした」。『3年生の主将』で目指す日本一。「何でも相談して来い」。気の優しい選手が多い4年生が、相談にのってくれた。

春、主将を務めた加藤泰靖投手(4年=志学館)は「進藤に負担はかけたくない。4年生がサポートをしよう」と投手、捕手、内野手、外野手のポジションごとに4年生がチームリーダーとなり、後輩たちの練習を細かく見た。遅くまで残って練習に付き合い、後輩たちの声に耳を傾けた。「200人の部員がいるので、今まで細かく見ることができなかった。あらためてみんないろいろなことを考えているんだとわかりました」と加藤。秋のリーグ戦、関東大学選手権では、コロナ後、初めてスタンド応援が許され、チーム全員で声を出し応援した。「こんな応援しましょう」後輩たちから声があがる。進藤は「春よりは『選手主体』でやれている実感がありました」と手応え。優勝を目指すチームができあがった。

経験の浅い3年生主将を中心に、支えあう4年生の力が下級生の心を動かし、チームがひとつとなった。試合後、前主将の加藤は「日本一を…目指してやってきたんですが…できなかった。ふがいない…」と涙を浮かべた。そして「上武大で日本一を目指す中で、進藤中心にまとまって、最後はやりきれたと思う…。来年、進藤を中心にもう一度目指して欲しい」と声を振り絞った。

春は準優勝。そして秋は準々決勝敗退。遠かった日本一。この悔しさは、来年。進藤を中心としたチームが、再び日本一に挑む糧にする。【保坂淑子】