ドラフト1位ルーキーのヤクルト吉村貢司郎投手(25)が、プロ初勝利を手にした。

6回97球を投げ2安打8奪三振1失点の好投。7連敗中の泥沼だったチームを救い、4位に再浮上した。小学2年で志したプロの道。練習場所を求め父と公園を転々とした中学時代。国学院大、東芝と2度のドラフト指名漏れも経験した苦労人らしく、5度目の先発マウンドでついに勝利の女神がほほ笑んだ。

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歩んできた人生のようだった。「長かったです」。ウイニングボールを女房役の古賀から受け取り吉村の表情が緩む。4月2日の初マウンドから5度目の先発でついに勝てた。お立ち台に降り注ぐ神宮の照明がまぶしかった。

初回2死から3連続四球。7連敗中の負のムードが漂い始めたが続く井上から空振り三振を奪い、自らの力で振り払った。その後は4回まで無安打に抑えるなど危なげない投球で因縁の6回へ。1死から中野に右翼越えの1号ソロを許し、1回に5点を先取しながら5回2/3で降板して勝ち星を逃した16日広島戦(マツダスタジアム)がよぎる。だが同じ轍(てつ)は踏まない。後続を斬り、一皮むけた姿を見せつけた。

「長かった」のは今に始まったことではない。大学、社会人と2度の指名漏れを経験。「悔しさはあったけど力不足だったと思って切り替えました。もう1度、力を付けようって」。小学時代、辞めたかったスイミングとは違い、小2で始めた野球は「漠然とプロになりたいと思えた」。だからだろうか。社会人2年目、2度目の指名漏れ直後も「何が何でもしがみついてやろう」と奮い立った。「実質、次がラストイヤーだ」と背水の覚悟を持ち、同3年目のチャンスでドラフト1位という夢の鍵をつかんだ。

「高2まで体は細い方だった」と母身知子さん(59)。吉村自ら食事を管理しプロを目指す体をつくっていった。本来は刺し身、煮魚などが好きな「魚派」だが体を大きくするため肉料理を母にリクエスト。高校時代は白米を大量にした弁当箱を昼前食、昼食と2食分を毎日カバンに入れた。

あらゆる努力を重ねても遠かったプロの世界。だからこそプロ初白星にも堅実に「まだまだここから。本当にここから」。遠回りの野球人生だと言われても、無駄な日々は1日たりともなかった。【三須一紀】

▽ヤクルト高津監督(吉村のプロ初勝利に) 3つ四球出しながらゼロで立ち上がったのは大きかった。チームが連敗中というプレッシャーもあったでしょうし、いろいろなことが詰まったプロ初勝利だと思う。

▽ヤクルト山田(吉村への声がけについて) どんどん四球を出して良いと。良い球行ってたんで大丈夫だよと。テンポも良くて守りやすくて、守備からリズムができて打撃に入りやすかった。

<吉村貢司郎(よしむら・こうじろう)>

◆生まれ 1998年(平10)1月19日、東京都生まれ

◆球歴 足立八中では「足立ベルモントボーイズ」に所属。日大豊山では1年夏からベンチ入り。3年夏の東東京大会ではノーシードから決勝進出し、オコエ瑠偉(現巨人)擁した関東第一に敗れた。吉村は先発し、4回途中8安打10失点。国学院大を経て東芝入社

◆猛アピール 東芝時代の22年10月のヤクルトとの練習試合で、村上から三振を奪うなど3回3安打7奪三振で無失点の好投

◆プロ入り 22年ドラフト1位でヤクルト入団

◆投げ方 振り子投法。東芝時代に開発し、吉村の代名詞に

◆登場曲 アニメ「ワンパンマン」の戦闘BGM「正義執行」。理由は「一発で敵を倒すという、そんなヒーローになりたい、みたいな感じで、みんなに愛されたいなと」

◆趣味 カフェ巡り

◆サイズ 183センチ、85キロ

◆投打 右投げ右打ち。今季推定年俸1600万円