4番Vで「史上最悪」評価を覆し、号泣した。

阪神大山悠輔内野手(28)が「4番一塁」を守り抜き、虎を18年ぶりアレに導いた。セ・リーグ最多の四球数で23年岡田阪神の肝を体現し、一塁での好守備や激走でもチームを鼓舞。球団生え抜き選手に限れば85年掛布雅之以来38年ぶりの全試合4番スタメンはもう間近だ。日刊スポーツ独自企画「比べるのは昨日の自分」の特別版として独占優勝手記を寄せ、今季の舞台裏を語り尽くした。【取材・構成=野球デスク・佐井陽介】

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実は優勝マジックがともった頃、YouTubeで「阪神 優勝」と検索しました。僕は茨城出身で、幼少期は祖父に連れられて東京ドームの巨人戦を観に行ったぐらい。阪神で優勝することの重みを知っておきたかったんです。調べると03年、05年のテレビ特集が残っていて、道頓堀の様子も映っていました。泣いて喜ぶ方も多くてジーンと来てしまって…。でもやっぱり実際に味わう胴上げは格別でした。もう本当にうれしくてうれしくて…。優勝の瞬間はドラフトや最下位の経験が脳裏をよぎって、大泣きしてしまいました。

これまでは頂点を知らない野球人生でした。小、中学校時代は県大会にも出られず、つくば秀英高校でも県ベスト8が1回だけ。白鴎大でもリーグ戦で1度も優勝していません。「勝ちたい」という欲求は誰にも負けません。だからチーム一丸で勝ち取った“初優勝”が本当にうれしい。岡田監督が四球の大切さを意識させてくれて、打線のつながりも増しました。常にベンチを盛り上げてくれた原口さん、糸原さんたちの声も大きな力になりました。

今季は岡田監督が「4番一塁」に固定してくれました。例年以上に「自分がやるんだ」と良い意味でプレッシャー、緊張感を持って臨みました。監督はよほど悪くなりかけた時だけ的確なアドバイスをくれて、併殺打でも「しゃあないやろ」とコメントしてくれる。今岡打撃コーチはキャンプ中から「クソボールを振っても何も言わないから」と信頼してくれた。期待に応えたいと必死になる中、本音を言えば首位独走中も毎日しんどかった。勝ち試合でもギリギリの展開が多くて…。心身ともに疲れ切った時は7年前のドラフト動画を見返して、なんとか心を奮い立たせました。

今だから明かせますが、僕のプロ野球人生は「謝罪」から始まりました。16年秋に阪神からドラフト1位指名された時、会場にいた観客の反応は「えー!?」と後ろ向きな悲鳴でした。プロ野球選手になるという夢がかなった瞬間なのに、本当にショックでした。親や家族も傷つけてしまって「自分に力がないからだ。有名じゃないからだ」と情けなくて…。ある雑誌の阪神ドラフト採点は50点で「史上最悪」とまで書かれました。知り合いに同期入団組の連絡先を聞いて「オレのせいでこんな言われ方してごめん」と謝り倒した悔しさは今も忘れません。

まだプロで1試合も戦っていない選手に、もう僕のような思いは絶対にしてほしくない。2度とあんな“事件”が起こらないように、自分が評価を覆して見返すんだ-。他の選手にはないモチベーションが、今季も僕を支えてくれました。今では自分の名前が入った赤タオルを掲げてくれるファンの方々も増えました。応援してくれる方々のためにも優勝できて本当に良かった。岡田監督はもちろん、大卒なのに1年目に「半年間しっかり体を作れ」と将来を考えてくれた金本監督、実績もないのに4番で使い続けてくれた矢野監督にも感謝しかありません。

「阪神の4番」は活躍したらすごく盛り上げてもらえるけど、翌日に打てなければたたかれる宿命です。以前は気持ちのコントロールに難しさを感じていました。記事を見て「うわっ」と影響されてしまったり…。今はSNSもやめて情報を目にしないことで、感情の浮き沈みを少なくできています。何よりいい結果でも悪い結果でも普段通りに接してくれる妻と猫2匹に助けられて、打てなくてもエラーしても引きずらずに済むようになりました。

とはいえ、シーズン終盤は2位広島が勝ち続ける中「追われる重圧」にも苦しみました。9月1日の敵地ヤクルト戦では体がフワフワして、こだわってきた一塁守備でファウルフライを落とし、グラブの下をゴロで抜かれ、悪送球…。なんとか2点差で逃げ切った直後、クラブハウスで思わず「勝って良かった!」と叫びました。僕なんかまだまだ。特に9月はチームメートに助けられてばかりで…。だから仲間と優勝を分かち合えたことが本当にうれしいんです。

今季は現時点で全試合に出場できています。阪神で大先輩の鳥谷敬さんや狩野恵輔さんにサプリメントや食事について教わり、ウエートトレやショートダッシュも日々のルーティンに取り入れた成果かもしれません。ただ、シーズンにはまだ先があります。CSに日本シリーズ。引き続き、勝つためだけに全身全霊を注いでいくつもりです。(阪神タイガース内野手)

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