最多安打×最多本塁打の打撃論だ。マリナーズの球団会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏(50)が、一般財団法人世界少年野球推進財団理事長の王貞治氏(83)と対談した。ユニクロがイチロー氏とともに頑張る子どもたちを応援するプロジェクト「ユニクロ イチローPOST」の一環。子どもたちへのメッセージも込め、2人のレジェンドが語り合った。【構成=古川真弥】

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日米でもっとも安打を放ったイチロー氏(通算4367安打)と、世界でもっとも本塁打を放った王氏(868本)。06年の第1回WBCで選手、監督としてともに戦った。

王氏(以下、王) (ソフトバンクの)現役監督だったからお断りしたんだけど、どうしてもやってくれと。選手をどうするか。(イチロー氏が)最初に手を挙げてくれた。

イチロー氏(以下、イ) 出場意思を電話でお伝えしたんですね。監督の電話には非通知と表示されたはず。「出てくれないよな」と思ったら、「はい、もしもし王です」って。えーってなったんです。まじかって。なんて自分は小さい人間なんだと痛感しました。

王 僕は無防備な人間だから。

イ 無防備にもほどがあるというか。突き抜けると強いんだなって(笑い)。

王 かかってきたから、何か用があるんだろうと受け止めちゃうんだろうね。

イ もうびっくりして、自らを反省するわけですけど。王監督が決断していただいた。そりゃあ、僕も行くしかない。

王 当時の日本の選手は準備運動もゆっくり。ところが、君だけは最初のランニングから全力疾走。他の連中も引っ張られた。

イ キャプテンを指名されなかったのは、どういう意図だったんですか?

王 やる前から決めちゃったらね。あの1本目のランニングで、もうチームが1つになって、君がリーダーっていうふうになった。

イ すごく残ってます。「君が1本目から全力でいってくれたことが、すごく大きかったんだ」と。

王 (第2ラウンドの)韓国戦に負けたときの君の表情。強烈な印象がある。

イ 普段は感情を見せないんですが、意図的に見せることで、やっぱり日本代表で戦うとイチローもこうなるんだと。自然な感情でもあったんですが、意図したところもありました。

世界一まで上り詰めた激闘の日々に話は尽きない。「打撃論」でも熱く語り合った。

王 僕は人一倍、ボールを集中して見てました。どっちかというと不器用。ボールをしっかり見ないと打てないと思い込んでいた。

イ その場合は目を使ってましたか?

王 目というか、自分の集中をね。

イ 僕は打つときに目を使いたくないバッターなんです。目を使うと反応が遅れてしまう。一点に集中すると体が緊張して動かなくなる特性があるので、ぼんやりと見る。決定的に違うところだなと思いました。

王 ぼやーと見てた?

イ ぼんやり見ないと、打てるゾーンを広げられないんですよね。

王 2ストライクまでは僕はすごく狭い。2ストライク取られたら広くなる。

イ 僕も追い込まれてからです。追い込まれてからは(ストライクゾーンの)四角の中は待ってないです。そこから外れたところを振らせにくるので、その球を打ってヒットにしたい。

王 僕は自分で変えようと思ったことはない。ピッチャーの攻め方がどんどん変わってくるから、変えざるを得なかったんですよ。今の僕の調子に対して、一番ホームランを打たれない球を投げてくる。だから、アウトコース主体の年もあるし、インコース主体の年もあるし、変化球主体の年もある。打撃フォームを見たら、毎年のように変わってますよ。

イ 僕の場合は意図的に変えていったんです。相手がどうであろうと。バッティングって、やっぱり終わりがない。これで決まりと思ったら足すくわれますし、実際、同じ形では結果は出ていかない。だけど、今の形が最高だという状態をつくりたい。相反する考え方なんですけど、そういうもの。バッターの難しいところだと感じています。

王 僕はバッター、イコール受け身だと思ってます。ピッチャーが投げてくる球を打たないといけないから、どう対応するかは相手の攻め方次第という考え。

イ これも大きく違います。もちろん、バッターは受け身ですけど、受け身の感触があると僕は必ずやられるんです。自分から攻めていく。そこにピッチャーを誘導する感触があるときが、こっちが思うような結果が出る状態なんです。

王 タイプとしては、僕はグッドボールヒッター。易しい球を打つ。イチロー選手は、どこの球でもバットが届くところは打って、それがヒットになったり、凡打になったり。バットを出した数は僕より圧倒的に多いはずです。

イ いやあ、こんなに違うところがあるとは思わなかった。面白かったです。

安打と本塁打。それぞれ頂点を極めながら、考え方は異なる。だが、プロとして共鳴しあう面は多い。

イ 僕がチームメートとの関係で悩んでた時期にお会いする機会があって。「監督は現役中、チームのために頑張る選手だったのか、それとも自分のために頑張って、その結果、チームにいいものをもたらす選手だったのか。どっちでしたか」とうかがいました。即答でしたね。「プロは自分が技術を磨いて、その結果がチームにプラスになるんだ」と。あの一言で、僕はすごくすっきりしました。

王 チームのためとか言うと言い訳しちゃうじゃない。自分のためだったら言い訳できない。自分のためにやるんだと、みんなが思ってやればいいと思うね。

イ 今はルーキーだって「チームのために」。いやいや、まずレギュラーとれよと。

王 高校時代から言わされるところがあるんじゃない。日本は自分を出すことが、あまり好かれない。

イ 「みんなで一緒に勝利しよう」ならいいんですけど、僕の感触では「みんなで一緒に負けよう」という空気に近い気がして、気持ち悪いです。

王 みんなでやって負けたらしょうがないとかね。でも、負けてから勝った人を見たら、もっと頑張ってればと思う。最初から勝つために、自分のためにと思わないとね。

最後に、子どもたちへ。

イ 今や、キャッチボールも普通にできる人が少なくなってきてます。

王 もう1回、親子でキャッチボールできる時代に戻りたいよね。

イ 子どもたちが野球やってくれたら、すごくうれしいですけど、そうじゃなくてもいいとも思ってるんです。好きになって、夢中になれるものだったら。楽しい。でも壁がくる。それを乗り越えようとする。いつしか自分が強くなっていると感じられると思う。

王 夢中になった人が、もっといいものがあるはずだと追い求めていく。その気持ちを30歳になっても、40歳になっても、持ってたらいいね。

両氏の対談映像は「ユニクロ イチローPOST」のウェブサイト(https://www.uniqloichiropost.com/)で公開。

◆イチロー(本名・鈴木一朗=すずき・いちろう)1973年(昭48)10月22日生まれ、愛知県出身。愛工大名電から91年ドラフト4位でオリックス入団。94年に史上初シーズン200安打。00年まで7年連続首位打者。同年オフ、マリナーズ移籍。新人で首位打者、盗塁王、MVP。04年に大リーグ新記録262安打。06、09年WBCで日本の優勝に貢献。12年7月にヤンキース移籍。マーリンズをへて18年3月にマリナーズ復帰。19年3月に現役引退。日米通算4367安打。180センチ、77キロ。右投げ左打ち。

◆王貞治(おう・さだはる)1940年(昭15)5月20日、東京都生まれ。早実から59年に巨人入団。62年から13年連続本塁打王、73、74年に3冠王を獲得。756本塁打の世界記録を樹立した77年に、初の国民栄誉賞に。80年の引退まで868本塁打を打ち、本塁打王15度、打点王13度、MVP9度、ベストナイン18度。巨人、ダイエー、ソフトバンクで19年監督を務め、リーグV4度、日本一2度。06年WBCでは日本代表監督として初優勝。現役時代は177センチ、79キロ。左投げ左打ち。