日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(44)が27日、シーズン開幕から1カ月を戦った阪神の現状を分析した。セ・リーグ優勝候補の大本命として戦うタイガースは前日26日、近本光司外野手(31)が左手首を骨折するという有事に見舞われながらも首位に浮上した。なぜ4番・佐藤輝明内野手(27)はハイアベレージをキープできているのか。なぜ鉄壁を誇った投手陣の調子が上がらないのか。レジェンドならではの冷静な視点で、古巣の現在地を解説した。
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阪神は現在、2位ヤクルトにゲーム差なしの首位。ここから骨折離脱した近本選手の穴をどう埋めていくのかという重たい課題と向き合わなければなりませんが、ひとまず上々のスタートを切れたのではないでしょうか。24試合を終えた時点でのチーム成績を見れば、103得点、打率2割5分9厘はともにリーグトップ。一方で防御率3・15はリーグ4位です。投手王国と呼ばれるチームにしては意外な数字にも映りますが、これはボールの変化も関係しているのではないかと考えます。
今季のボールはすでに多くの選手、関係者が証言している通り、昨季よりも飛んでいると感じます。どのチームの投手陣も大変ですが、特に影響を受けているのが阪神ではないかと想像します。これまで阪神の投手陣は広くて本塁打が生まれにくい甲子園で、余裕をもって投球できていました。それが突然、「少しでも甘く入ったらホームランになる」という重圧と戦わなければならなくなったのです。
狭い球場を本拠地とする投手はある意味、被本塁打に慣れがあります。その点、阪神投手陣には被本塁打への慣れがなく、「より丁寧に投げないといけない」というプレッシャーが制球のズレを生んでいるようにも映ります。“飛ぶボール”に慣れるまでは我慢が必要になるかもしれません。
一方、打者はメリットを享受できています。特に長距離打者は今まで外野フライだった打球が長打、本塁打になるのですから、甲子園でプレーしていても横浜スタジアムや神宮で打席に入っているような気分になっているはずです。仮にボールの反発係数が高くなれば、打球スピードが上がります。ゴロが内野手の間を抜ける確率も高くなり、打率も上がります。
ただ、佐藤輝選手の好成績はボールの変化だけが要因ではなさそうです。ここまでリーグ2位の6本塁打を記録して、打率3割8分2厘、23打点、出塁率と長打率を合わせたOPS1・211は全てリーグ断トツ。数年前と比べて明らかにあらが少なくなりました。中でも、力感がなくなったスイングに最大の魅力を感じます。
数年前の佐藤輝選手は100メートル飛ばせば柵越えできる球場でも130メートル飛ばそうとしているようなスイングを続けていました。「もっと遠くへ」という向上心は大切ですが、力みにつながっては元も子もありません。それが今の佐藤輝選手はホームランに完璧を求めなくなったように見えます。ギリギリのフェンスオーバ-でも本塁打は本塁打、という感覚を持てるようになったのかもしれません。
右翼方向に風が吹いていれば、高く打ち上げれば入る。狭い球場であれば、ミートさえすれば柵越えできる。そんな風に球場や風、相手投手との兼ね合いも頭に入れながら「いい塩梅」の力感を見つけられたことで、ボールをとらえられる確率が高まっているように感じます。10割の力で振るより、8割の力で振った方がスイングの再現性は当然、上がります。トレーニングで元々の出力も上げられたことで、8割の力でも他を圧倒できている印象です。
最近の佐藤輝選手はポール際に切れる「惜しいファウル」も少なくなりました。打者は力みが出ると、強い打球がファウルになりがちです。それが少なくなって、フェアゾーンに飛ぶ確率が高くなっています。飛距離と確実性を両立させられるステージまでステップアップしているのは間違いありません。(日刊スポーツ評論家)



