29年ぶり日本一を目指した日本シリーズで敗退した阪神に激震が走った。主将の鳥谷敬内野手(33)が今オフ、保有する海外FA権を行使する意思を固めたことが30日、分かった。球団は全力で慰留する方針だが、メジャー挑戦を選択する可能性が高くなった。来季は10年ぶりのリーグ制覇、30年ぶりの日本一を目指す戦いの中で鳥谷の存在は欠かせないだけに、ショッキングなニュースだ。

 敵地でソフトバンクに敗れ、29年ぶりの日本一奪取は夢に終わった。全力で走り抜いた1年が終わり、鳥谷は重大な決断を下した模様だ。「まだ負けたばっかりなので…。ゆっくり考えます」と話すにとどめたが、海外FA権行使の意思を固めていることが明らかになった。

 早大時代から将来のメジャー挑戦を夢見てきた。12年シーズンに海外FA権を初取得。同年と昨年のオフは夢を追うのか、愛着のある阪神で頂点を目指すのか、二択で悩み抜いた末に残留を決断。同時に2年連続でFA権を行使せず単年契約を結び、海を渡る選択肢を残していた。

 球団はシーズン中から水面下で交渉し残留を求めてきたが、鳥谷はすでに球団側に海外FA権行使の意思を伝えたとみられる。過去2年を振り返れば、今回はメジャー挑戦を視野に入れてのFA権行使と考えるのが自然だ。メジャー球団や阪神との交渉次第では残留の可能性も残る。ただ、その線は現時点で薄いと言わざるを得ない。

 近年、米国内での日本人内野手の評価は低い水準で落ち着いている。12年オフにアスレチックスと契約した中島もいまだメジャー出場ゼロだ。メジャー挑戦がいばらの道と理解した上でも、鳥谷が海を渡る可能性は高い。

 13年WBCでは1番二塁として、天然芝にも通用する堅守はメジャースカウト勢からも一定の評価を得た。この3年はメジャー球団スカウトが甲子園まで視察に訪れていた。今季も当然のように144試合フルイニング出場。体の強さも過酷な移動や日程を強いられるメジャーでは、大きなセールスポイントだ。

 今季は自己最高の打率3割1分3厘をマーク。出塁率4割6厘に8本塁打、73打点と充実の1年を送った。今オフのメジャーは内野手の需要が高いという予測もある。来季34歳を迎える年齢を考えても、今が挑戦する最高のタイミングと言える。日本球界屈指の遊撃手だが、二塁挑戦を辞さない覚悟もあるはずだ。

 押しも押されもせぬ虎のリーダー。生え抜き11年目のキャプテンが流出となれば、チームにとっては一大事に違いない。球団は今後も引き留めに全力を尽くすしかない。「みんなの力でここまで来られて、野球ができたことは幸せです」。鳥谷はヤフオクドームでしみじみと1年間を振り返った。

 ◆メジャー球団の動向は…

 海外FA権を保有する鳥谷に対して、複数のメジャー球団が注目している。正遊撃手のいないマリナーズや、ジーターが引退して二遊間が手薄なヤンキースのほか、メッツも二塁手の人材を求めている。

 あるア・リーグ球団スカウトは「鳥谷は球を捉える力が高くなった。ボールをきっちり線のなかで捉えられている」と評価する。打撃で確実性が増し、ハイレベルな守備と合わせた総合力がどこまで評価されるか。今季、球場で鳥谷のプレーを視察したナショナルズやロッキーズのほか、日本人選手の獲得を目指すダイヤモンドバックスや二遊間を守るラウリー、カヤスポがFAになったアスレチックス、ロイヤルズも有力候補だ。

 レイズはFAになっているゾブリストの去就次第で新たな補強に乗り出す可能性もある。メジャーのFA市場の動向によって、流動的な要素もはらむ。