ラッキーボーイの打棒が止まらない。侍ジャパンの小林誠司捕手(27)が、6回の同点適時打を含む2安打で存在感を発揮した。5試合の打撃成績は1本塁打を含む7安打、5打点。チームトップの打率5割をマークした。本番直前に正捕手に抜てきされた丸刈り頭の女房役が、連日の活躍でチームを5連勝に導いた。

 両腕を目いっぱい伸ばしてつかまえた。1点を追う6回1死一、二塁。打席の小林は明確なイメージを持っていた。「代打が出なかったら、初球からいこうと決めていた」と、外角に逃げる変化球に力を振り絞って引っ張った。顔がよじれる。「とにかくチームが勝てばいい。自分は走者を進めたり、バントが仕事。打席に立たせてもらっている以上、しっかりと食らいついていく。それだけです」。積極的な打撃で三遊間を抜く同点打を放った。一塁ベース上で拳を握った。

 目の前の光景が夢のようだった。扇の要からグラウンドを一望した。「セカンドにキク(菊池)がいて、レフトにはゴー(筒香)がいる。DHに哲人、みんなすごい選手ばかり。自分がここにいることが信じられない」。野球少年がスター選手を見ているようだった。一方で「僕はいいんです…」が口癖だった。

 侍ジャパンの集合日の2月22日。宮崎市内の料理旅館のレストランで筒香と鍋を囲んだ。「ほんまに頼むな。打ってくれよ。俺なんかは、いるだけだけど、めちゃくちゃ応援するから」。自分をサポート役だと自認していた。だが、本番に入ると正捕手に抜てきされ攻守で大活躍。捕手としてだけでなく打撃でも存在感を発揮し続けている。

 「負けたくない」。伝統球団の捕手、侍ジャパンの捕手には常に厳しい目が向く。「『どうせ』って言うのはやめました。僕は下手くそなんで必死にやるだけ。がむしゃらに。それだけです」。マスク越しの目に力が宿った。

 8回代打の内川が決勝犠飛を放ち、交代して炭谷が、牧田とのコンビで試合を締めくくった。「内川さんがやってくれると思っていた。銀仁朗さんはどっしりしている。間合い、リズムを勉強して成長していきたい」と小林。自主トレ中からテーマは一貫して「勝ちたい」だった。単純明快な目的意識が小林の原動力になっている。【為田聡史】