<プロボクシング:WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇29日◇さいたまスーパーアリーナ

 WBC世界フライ級王者内藤大助(35=宮田)が、ついに王座から陥落した。自慢の変則ボクシングが決定打につながらず苦戦。興毅の固いガードとフットワークに苦しめられたまま、12回終了のゴングを聞いた。足掛け3年、守り続けたベルトを因縁の亀田家に奪われた。今後について明言しなかったが、試合後は妻真弓さん(36)が宮田博行会長に現役続行を直訴。妻の後ろ盾を得て、内藤が現役続行を決意する可能性もありそうだ。

 リングを下りる背中が寂しく、小さく見えた。大量のフラッシュを浴びる新王者とは対照的に、内藤は四方に頭を下げた。握手を求める興毅の手には、軽く触れるだけだった。王座陥落から約40分後、ようやく会見場に姿を現した。人前で涙は見せなかったが、泣きはらした後だったのだろう。時折ズルズル鼻をすすり、思いを口にした。

 内藤

 ファンの期待を裏切りました。ほんっとに申し訳ない。口だけの男です。申し訳ない!

 情けない!

 柔らか口調の内藤節を封印し、珍しくきびきびと言い切った。そして、不祥事の謝罪会見のように、深々と頭を下げた。

 決定打が、最後まで出なかった。上半身を小刻みに揺らしながら、興毅が距離を詰めてくるのを待った。しかし、2回には、右フックからの左ストレートを被弾。その後も、鋭いステップワークに対応できず、次々と左を被弾した。終盤は顔が変型し、だれもが知っている優しそうな顔ではなくなっていた。

 4回終了後の公開採点は0-1、8回終了後は0-3。ともに内藤の劣勢だった。強打自慢の左右フックで反撃に出たが、ガードの上をたたくばかりだった。「後半は取り返すという思いがあって(前へ)出て、手数も出してやろうとしたつもりだったけど…。向こうにポイントが行って…ましたねー」。悔いの残る戦い方だったが、宮田会長は「国民の期待を背負ってる以上、殴り勝つスタイルを貫いた」と説明した。

 05年10月、2度目の世界挑戦でポンサクレックに敗れた後、真弓夫人と約束した。「次に負けたら、ボクシングをやめる」。それ以降、常に負けたら最後の意識で戦い、勝ち続けてきた。そして興毅との宿命対決に敗れた。今後については「今はまだ何も考えてない」と明言を避けたが、試合後には真弓夫人が控室を訪れ、宮田会長に「続けさせて下さい」と直訴した。

 07年、亀田兄弟の次男大毅を倒し、内藤は国民的王者にのし上がった。そして迎えた亀田家との第2章は、最悪の結末を迎えた。次は第3章の始まりなのか、これが最終章なのか。宮田ジム関係者は「内藤の頭の中には、負けても最後に亀田に雪辱して終わるというシナリオがあるはず」と現役続行を期待した。すべての答えは、内藤の心の中にある。【森本隆】