普段は感情を表に出さない男が、リング上で泣き崩れた。総合格闘技のRIZIN31大会が10月24日に神奈川・ぴあアリーナMMで行われ、フェザー級タイトルマッチで王者斎藤裕(34=パラエストラ小岩)がDEEPフェザー級王者で挑戦者の牛久絢太郎(26=K-Clann)に敗れ、初防衛に失敗した。2回4分26秒、重心を低くしたその一瞬に飛び膝蹴りを受け、右目上部を出血。ドクターストップによるTKO負けだった。

「いつでもどんな相手でも王者として受けて立つ」。9月30日の会見で、内に秘める熱い思いをぶつけた。対戦相手や日程が転々とする中で「誰が相手でもタイトルマッチにしてください」と榊原CEOに直談判。おとこ気あふれる要求で、今大会のメインイベンターを託された。

それだけに、大会にかける思いとプレッシャーは一際強かった。朝倉未来・海兄弟や、堀口恭司、那須川天心がいない中で、大会の盛り上がりを不安視する声もあった。試合前の会見では「最近、悪夢ばっかり見る」と吐露。「相手との戦いではあるが、お客さんや世間との試合だと思っている。メインにふさわしい1番の試合にしたい」と、自分に言い聞かせるように話していた。

リング上で流した涙は、ベルトを奪われた喪失感。そして、応援してくれたファンに不本意な試合を見せてしまった無念だった。試合から一夜明けた25日、自身のYouTubeチャンネルを更新。「会場、PPV、たくさんの方が見てくださったと聞いています。本当にありがとうございました」と感謝を口にした。さらに、目の傷は眼球近くに及んでいたことを明かし、「(ドクターストップは)ルール上は仕方なかった」と振り返った。それでも「個人的には眼球が傷つくぐらいならできる。あと5分、なんとでも堪えることはできた」と悔しさをにじませた。

王座は失ったが、目の中の光までは失っていない。治療に専念し、早期の復帰を目指す。「ここで終わりたくない。もうひとふんばり…ふたふんばりしたいと思います」。そう、力強く動画を締めくくった。牛久にリベンジし、止まった時間を動かす-。いつもの冷静な表情の斎藤が、逆襲の日を見据えていた。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)