プロボクシングの23年度年間表彰選手が決まり、WBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(32=BMB)が2年連続の技能賞となった。

寺地は1月23日にエディオンアリーナ大阪で行われた防衛戦で、カルロス・カニサレス(30=ベネズエラ)との打撃戦を判定2-0の薄氷勝利で制した。昨年4月にアンソニー・オラスクアガ(米国)とも大激戦を演じたが、最後は9回TKOで仕留めている。「負けるかも」の大ピンチはWBC王座9度目防衛戦の21年9月に矢吹正道に10回TKOの初黒星で、王座から陥落して以来だろう。

ただ、その大苦戦が寺地の「技能」の幅をクローズアップする。寺地は矢吹に敗れ、その後にダイレクトリマッチに挑んだ。指導する加藤トレーナーとリベンジへ、綿密に計画を練った結果がファイタースタイルへの変身だった。

矢吹を3回KOで退けて王座を奪回。その試合を含めて4戦連続「KO」は新たなボクシングスタイルを突き詰めた結果でもあった。今回、その連続KO記録こそ途絶えたが、苦しい試合展開を勝利に結びつけたものこそ「技量」だ。

今回も寺地はファイタースタイルを突き詰めていた。その根幹が毎回、大阪で行う「篠原キャンプ」。身体的なトレーニングを託す篠原トレーナーの下、過去にない過酷な練習を積んだ。その象徴的な1つが体の向きを四方に変えるランニング。通常は前向きを後ろ、左右に行う。3分×12ラウンドが通常メニュー。その倍をこなした。

寺地は「足を使った(アウトボクシングの)方が楽ですよ」と話す。リスクも背負い相手の距離にも入りながら、倒すためにインファイトする。今回もその戦いを狙い、挑んだがカニサレスは想定外の「タフガイ」だった。「本当にギリギリの試合」と一夜明け会見で寺地は振り返った。

「やばい」場面は何度もあった。それを乗り切れたのが寺地の「技量」だ。最後はセコンドの指示で、打ち合いを避けて逃げ切った。激しい打ち合いから、そこにシフトチェンジできたのも、寺地が多くの引き出しを持つからこそだった。

加藤トレーナーは「すごいタフな試合。激しい打ち合いになった時の距離感、打ち合いになった時のしのぎ方とか、いろいろ学ぶ試合だった。採点は賭け。相手にポイントを与えないよう指示した」と明かした。その上で王座を死守した寺地はここにベルトがあるのはうれしいし、心折れずに戦い抜いたのはうれしい」と言った。

何もかも思うようにいかないのが世の常。「まずい」となった中で、いかに結果を引き寄せられるかはその選手の技量だろう。今回の大苦戦をへて、拳四朗がまたどう変身するのか。32歳でも進化を続ける次のステージを楽しみにしたい。

【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

2024年1月23日 カニサレスに判定勝ちで防衛を果たした寺地
2024年1月23日 カニサレスに判定勝ちで防衛を果たした寺地