なんとなくどんよりした気分になる。大相撲名古屋場所はドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で7月4日に初日を迎える。昨年は新型コロナウイルスの影響で東京・両国国技館開催となり、2年ぶり。楽しみに待っていたファンも多いはずだが、看板の大関朝乃山がガイドライン違反で6場所の出場停止と場所前は暗い話題が覆った。

とはいえ、話題は満載の場所といえる。横綱白鵬が進退をかけて臨み、大関照ノ富士は綱とりに挑む。幕内下位にも目を向けると、夏場所で十両優勝を飾った宇良が17年九州場所以来となる再入幕を確実にしている。両膝の大けがで序二段まで落ちて、はい上がってきた。そのあきらめないストーリーは照ノ富士の軌跡と近い。

一時、大型化が加速していた角界だが、最近は体重100キロに満たない炎鵬を筆頭に、小兵力士の活躍が目立つ。「小よく大を制す」は大柄な外国人に比べて、体格差がある日本人が好むことわざだ。大きな相手にひるまず立ち向かい、勝つ。そこにはさまざまな工夫があり、リスクがある。宇良も一時は絶望的と思えた大けがを克服し、幕内の土俵に帰ってきた。

見ていて楽しい力士の1人だ。何をやってくれるのか、わくわく感を幕内の土俵に与えてくれる。先場所、優勝を決めた後に「(大けがで)半ばずっとあきらめていたが、すごく運がよくて一度、関取に戻れたらと思って復帰した。まさか幕内までとは思っていなかった」と話していた。照ノ富士も同じ。一度、地獄を見た男は強い。

膝が元通りになることはないという。再発の怖さにおびえながら、トレーニングを重ねてきた。本人は詳しく語らないが、血のにじむような努力は称賛でしかない。

「何をやってくるか分からない」。そんな魅力もプロとして必要な要素。約4年ぶりとなる幕内の土俵で名古屋のお客さんをどれだけ楽しませてくれるのか。ある意味、名古屋場所の“看板”の1人となりそうだ。【実藤健一】

白鵬(2021年3月15日撮影)
白鵬(2021年3月15日撮影)
照ノ富士(2021年5月23日)
照ノ富士(2021年5月23日)