日本ウエルター級7位の別府優樹(25=久留米櫛間)が、日本記録タイの15連続KO勝利を逃した。元東洋太平洋スーパーウエルター級王者チャールズ・ベラミー(35=八王子中屋)と対戦。

 固いガードを打ち破れず、三者三様の引き分けに終わった。デビュー戦からのKO勝利は14でストップしたが、別府の心には試合中に1つの感情がわき起こっていた。

 「パンチが効いている。通用するんだ」。それはデビュー戦から14連続KOを続けてきた異名「九州のタイソン」には、あまりにも素朴な喜びだった。決して自分の力に半信半疑のまま、日本記録がかかったリングに上がったわけではないだろう。ただ、同時に周囲の懐疑的な目に、本心から己の拳を信じ続けることはできなかった面もあったようだ。

 「九州の~」は、古き良きKOパンチャーへの郷愁的な称賛ではあるが、ある意味で「地域限定」というきらいもある。それは記録を意識してからの12、13、14戦目の相手が無名のタイ人であり、記録継続中に日本ランカーとの対戦もないことも、拍車をかけていた。当然本人はそんな声を知っていた。「気にしないようにしても、多少はなっていた」。だからこそ、記録狙いの外国人ではなく、「強い相手とやって勝ちたかった」とベラミーに向かっていった。

 勢いよくキャンバス中央に駆けだした1回には、鋭く振りかざす両拳で、ベラミーの体から衝撃音を響かせた。ガードの上からも構わずに打ち込むのは計画通り。ただ、そのプランだけでは元王者で、プロ30戦でKO負けなしの強豪は打ち崩せなかった。3回からは打ち疲れに無防備にガードが下がる場面も散見され、前進するベラミーを足でかわしていく場面が増えた。これまでのスタイルとは一線を画す展開。パンチを打ちながら、かわしながら、笑顔が見られるようになったのは、そんな最中だった。「楽しかった」。KOへの期待がしぼんでいく中でも、そう感じていたという。

 強い者と戦う。それはボクサーとしての本性の部分で外れてはいけない大前提だろうが、置かれた環境などから許されない時もある。その過程、果たして自分はどれだけ強いのか分からなくなることもあるだろう。だから高い壁にぶつかれ、そこで通用したを感じた喜びは深かった。「自分のボクシングを見てほしいと思いがあった。ここまでやれるんだと」。記録だけが注目され、記録を逃した試合。それでも決して何も残らなかったわけではない。【阿部健吾】