新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令から1週間以上が過ぎた。スポーツイベントは再開の見通しすらたたない。回避すべき「3密」の最も影響を受けるひとつがボクシング。何とか普通に生活できる世界王者レベルのひと握りの選手ではなく、普通の選手はどうなのか。昨年度の全日本フェザー級新人王・前田稔輝(じんき、23=グリーンツダ)に聞いた。

-ジムのある大阪の現状は

前田 厳しいです。(ジムは最大5人制限で練習開放も)自分は(緊急事態宣言発令の7日から)ジムワークは自粛してます。実家暮らしなんで、万が一かかったら、家族に迷惑をかける。ただ、ジムワークできないのが一番、歯がゆい。走ったり、公園でシャドーか、簡単な筋トレしかできないんで。

-生活は

前田 飲食業でアルバイトしてましたが、先月(3月)末で休業。今は無職ですが、応援してもらっている後援者のみなさんに支えてもらっています。自分は実家暮らしなんで。1人暮らしで、アルバイトに生活費を頼る選手に比べたら、助かっていると思います。

-精神的にも苦しい

前田 自分だけじゃなくて、みんなが同じ状況。自分1人がケガで練習できないとなれば別ですが、みんなが同じ条件。そう思って練習しています。

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大商大2年時に日本拳法で日本一となった。武道で培った精神も、今の状況に生きているという。

前田 (日本拳法時代も)決して満足のいく環境ではなかったので、今の1人でのトレーニングも苦にはならない。いつでも試合ができるように準備をしています。

4月12日に予定していた試合が延期となった。振り替え日程も白紙。所属するジムの本石会長は、年内いっぱい再開はできない最悪のシナリオを想定しているという。

前田 SNSで自分たちよりも厳しい東京の選手のメッセージも見ます。みんなが苦しい。この苦しさを乗り越えた者が、いい結果をつかめると思ってます。

現状を冷静に見つめ、耐えながらボクサーも日常の回復を待っている。

【取材・構成=実藤健一】

○…ボクシングの選手だけでなく、ジムも新型コロナウイルスと戦う。前田が所属するグリーンツダジムでは、同時に5人を超えないよう調整した上で選手にジムを開放。除菌に効果がある超音波式加湿器を入れるなど感染防止に努力。同ジムの本石会長は「まず選手、スタッフを守らないといけない」。長期戦を覚悟する中で、スタッフへの給料支払いが滞らないよう対策を講じているという。長引くほど厳しくなるだけに各ジムが苦境打破に取り組む。