王者寺地拳四朗(29=BMB)が、号泣の8度目防衛を飾った。同級1位久田哲也(36=ハラダ)から2回にワンツーでダウンを奪って優位に進め、大差判定3-0で勝利した。王者が泥酔によるトラブルで試合が延期された経緯もあり、「負ければ人生が終わっていた」という重圧から解放されて涙を流した。今後は元WBA世界ライトフライ級王者具志堅用高氏の連続防衛13回の更新、同級4団体統一を目標に掲げた。

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まるで子どものように泣きじゃくった。試合後の勝利者インタビュー。マイクを手にした寺地は、おえつで言葉が続かなかった。「ありがとうございます。本当、昨年は自分の不祥事で久田選手や関係者の方に本当にご心配をかけ、これからどうしたらいいんだろうという不安の中、今回勝てて。本当にうれしいです」。いつもクールを貫く王者が感情をむき出しにした。

7度目の防衛を飾った19年12月末以来、約1年4カ月ぶりの実戦は厳しい戦いだった。2回に鮮やかなワンツーでダウンを奪う。そこから「倒せるかと、力んでしまった」。ベテランの久田の粘りに苦しめられた。「流れは悪くなかったが思った以上に相手が前に出てきた」。死にものぐるいで戦いを挑んできた相手を受け止め、フルラウンドの死闘を演じた。出し切っただけに涙があふれた。

コロナ禍で自粛生活の中、昨年7月に泥酔して東京都内のマンションに不法侵入し、他人の車を破損させるトラブルをおかした。日本ボクシングコミッション(JBC)により、発覚した昨年12月1日から3カ月のライセンス停止。制裁金300万円に社会奉仕活動の厳しい処分を受けた。

それだけに「いろいろ不安があった。負けたら人生終わりますからね。負けられない。絶対に勝たないといけないと思っていた」。普段はひょうひょうとしたスタイルだが、心の底では重いものを抱えていた。その重圧に打ち勝った。

日本のジム所属選手で歴代5位タイの連続8回防衛を果たした。今後に向けて、これまでも公言している具志堅氏の13回超えに加え、「他団体も全部、ベルトはとりたい」と言った。「今回のことで、いい意味でメンタル的にも強くなれた」。1年4カ月のブランクをへて成し遂げたV8。ここから拳四朗の第2章が始まる。【実藤健一】

◆寺地拳四朗(てらじ・けんしろう) 1992年(平4)1月6日、京都府城陽市生まれ。奈良朱雀高→関大。アマ戦績は58勝(20KO・RSC)16敗。14年8月にプロデビュー。15年12月に日本ライトフライ級王者、16年8月に東洋太平洋同級王座を獲得。17年5月にWBC世界同級王座を獲得し8連続防衛。プロ戦績は18勝(10KO)無敗。身長163・8センチの右ボクサーファイター。

○…新型コロナウイルス感染症拡大防止のため25日に大阪府にも緊急事態宣言が発出される前日、ギリギリのタイミングで有観客の世界戦を実施した。プロモーターの真正ジム山下正人会長は「緊急事態宣言が発出される中で興行をできた。感染対策は万全にした。大成功だったと思う」。入場者制限で半分以下の2200人となったが、観客もルールに従って声を出さず拍手での応援に徹した。