ボクシングWBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(29=大橋)がWBO世界同級王者ポール・バトラー(34=英国)を11回1分9秒、KO勝ちし、史上9人目の4団体統一王者となった。日本初、アジア初、バンタム級初、史上初めて全KOで現役王者からベルトを奪った「モンスター」が本紙に手記を寄せた。

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みなさん、ありがとうございました! 4団体統一王者になりました! この4年間、すごく遠回りしたような気もしましたが、正直、バンタム級のウエートも楽ではない中、4団体統一に突き進むことができました。12月13日、最高の日になりました。バトラー選手、バトラー陣営のおかげで試合が成立したと思っています。ありがとうございました。

19年に(階級最強を決める大会)ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)優勝でベルトが2本になった時でも、まだ4団体統一に現実味はなかったです。本気で統一できるのではと思ったのは昨年6月。WBC王者ドネア、WBO王者カシメロが8月に統一戦で激突すると知った時です。これで2団体統一王者同士で昨年末にはやれると思ったのですが…そのドネア-カシメロ戦が中止になりました。順調にいけば1年前には4団体統一できたはずでしたが、結果的には史上初めて1本ずつ王者からベルトを獲得し、4団体統一できましたし、今となっては良かったと思っています。

今だから言えるのですが、6月のドネア戦前の左肩負傷は思った以上に深刻でした。気持ちは絶好調だったので「調子はいい」と言い続けましたが、試合1カ月前、自分で服が脱げず、寝返りも打てなかったほどです。患部に痛み止めの注射を打ちながら練習を繰り返し、ドネア戦に臨みました。医師の診断では関節炎と言われ、消耗による痛みが原因で長引くと分かりました。消耗ならば現役を続ける限り続くのでは…と内心はこの先も付き合っていかなければいけないケガとまで覚悟していました。

左肩の不安を抱えたまま、9月に米ロス合宿に臨みました。医師のチェックで「左肩は問題なし、大丈夫」と言われていたこともあり、米国で吹っ切ろうと決め、思い切りスパーリングをしました。「気合で治す」と言いますが、この荒療治で痛みと不安から一気に解放されたことはバトラー戦に向けて非常に大きかったです。

この4団体統一を成し遂げた今、スーパーバンタム級転向を考えています。今回の減量の最後はきつかったですし、もうバンタム級に思い残すことはないです。スーパーバンタム級には強豪がひしめいています。23年は1つ上の階級のトップ戦線に入っていきたい。そして、これまで公言していた通り35歳で引退と考えた場合、あと5年。フェザー級で5階級制覇を成し遂げるのがボクシング人生の最終章になるのかなと思っています。

4年前、マクドネル選手に勝ってWBA王座を獲得した時、大橋会長には許可を得ていましたが「(階級最強を決めるトーナメント)WBSSに参戦します」と契約前に宣言してしまいました。その後、大橋会長は主催者と交渉をまとめるのが相当、大変だったと聞きました。しかしテレビの生中継で宣言したことでファンの方にもWBSS知ってもらい、現在のように注目される流れができましたと思います。会長にはすべての面で支えていただき、本当に感謝しています。

そして常に自分が練習に専念できるように協力してくれた大橋ジムの全選手、スタッフのみなさまにも感謝を伝えたいです。最後に、ここまで公私において支えてくれたトレーナーの父をはじめ、家族に感謝します。(4団体統一バンタム級王者・井上尚弥)

◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。元アマ選手の父真吾氏の影響で小学1年からボクシングを開始。高校時代にアマ7冠。12年7月にプロ転向。国内最速(当時)6戦目で世界王座(WBC世界ライトフライ級)奪取。14年12月にWBO世界スーパーフライ級王座を獲得し、史上最速(当時)の8戦目で2階級制覇。18年5月にWBA世界バンタム級王座を獲得し、国内最速(当時)の16戦目で3階級制覇。19年5月にIBF同級王座を獲得し、同年11月、WBSSバンタム級制覇。今年6月にWBC同級王座を獲得し日本人初の3団体統一王者に。身長164・5センチの右ボクサーファイター。