史上初となるWBC、WBA日本人王者同士による団体王座統一戦が、ついに実現する。WBC世界ミニマム級王者・井岡一翔(23=井岡)とWBA同級王者・八重樫東(29=大橋)が、6月20日に大阪市のボディメーカーコロシアムで互いの王座を懸けて対戦すると9日、大阪市内で発表された。師匠同士がライバル関係にあった“因縁の対決”で、2人の王者は早くも火花を散らした。

 歴史的一戦にふさわしい高級ホテルでの会見で、両王者が闘志を高めた。先に紹介された井岡は「主役は自分。日本ボクシング界に僕が新たな歴史を刻みたい。対戦が決まったことに運命を感じる」。6歳上の八重樫も「脇役でも主役を食うことがあることをお見せしたい。キャリアを積んできた者にしかできないボクシングをする」と、王者としてのプライドを誇示した。

 約20年の時空を超えた“代理戦争”だ。井岡の叔父弘樹氏(43=井岡ジム会長)と、八重樫が所属する大橋ジムの大橋秀行会長(47=日本ボクシング協会長)はともに元世界王者。階級も近く、80年代後半から90年代前半にかけてライバル関係にあった。当時のファン投票で両者が一番見たいカードに挙がったが実現しなかった。師弟での世界王者は、元WBAフライ級王者花形進(花形ジム会長)が同ミニマム級王者星野敬太郎を育てたのを含め、日本で過去3例しかない。

 それだけに両会長も因縁の深さを感じていた。大橋会長は「7戦目で世界を取った井岡一翔君は今、金色の輝き。八重樫は7戦目の王座初挑戦であごを砕かれ、自信も砕かれた。そんな自信を少しずつかき集めて、今はステンドグラスの輝き。金色が輝くのか、ステンドグラスが輝くのか」と対決ムードをあおった。井岡会長も「何でしたら今から大橋会長と勝負しましょか」と、緊張感が漂う会見場をジョークで和ませた。

 これまで実現しそうで、しなかった日本人王者による2団体統一戦。昨年10月に八重樫側がラブコールを送り、両陣営が対戦に合意。中継テレビ局、ファイトマネー、興行権など山積の諸問題をクリアして実現にこぎつけた。現在、日本には井岡と八重樫を含む8人の世界王者が存在。ベルトの価値が以前より希薄な状況だ。大橋会長は「この試合が起爆剤として日本ボクシング界の人気向上につながれば。ジム会長としてでなく、日本協会長として率先してやらないといけないと思った」と話す。

 両王者はアマチュア時代からスパーリングを何度か経験。互いに特徴を把握しており、戦略面も勝敗の鍵を握る。井岡は昨年大みそかの98秒TKOに続く2連続KO勝利を狙う。減量苦による階級アップを検討中で、今回がミニマム級の「卒業試合」になりそうだ。八重樫もジム同僚の世界王者佐藤洋太とのスパーを既に積んでおり、8カ月の試合間隔を「問題ない」とした。史上初の決戦について両者は「結果的についてくるもの」と声をそろえた。待望の好カード。ボクシングファンならずとも、注目の戦いだ。【大池和幸】

 ◆統一戦

 渡辺二郎が幻の「2団体統一王者」として名を残している。WBAスーパーフライ級王座を6度防衛し、84年7月にWBC同級王者パヤオに12回判定勝利。しかしWBAがこの試合を認定せず、王座を剥奪された。10年4月にはWBCバンタム級王者長谷川穂積が、日本未公認団体のWBOの同級王者モンティエルとの「事実上の統一戦」に4回TKO負けした。女子では09年12月にWBAミニマム級王者の多田悦子とWBCライトフライ級王者の富樫直美が「2冠戦」。ライトフライ級(リミット48・9キロ)の富樫が多田のミニマム級(同47・6キロ)まで体重を落として実施したが、判定で引き分けた。

 ◆ルール

 両団体の世界戦で多少異なるが、WBCルール適用で両陣営が合意。4、8回終了時に採点を途中公開。WBAのスリーノックダウン制(1回に3度ダウンで自動KO負け)でなく、フリーノックダウン制が採用予定。