西前頭5枚目阿武咲(23=阿武松)が、恩返しの1勝で優勝争いを混沌(こんとん)とさせた。無敗の横綱白鵬を初めて破り、17年秋場所以来2年半ぶりの金星を挙げた。白鵬が主催する少年相撲「白鵬杯」の第1回大会で団体優勝し、メダルをかけてもらってから10年、成長した姿を見せつけた。平幕の碧山が1敗を守って白鵬に並び、横綱鶴竜、朝乃山ら2敗勢4人が追いかける。

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阿武咲が、横綱白鵬のかち上げを攻略した。相手の前腕を左ではね上げ、横綱を大きくのけ反らせた。密着を避けるように回り込み、引いた瞬間を逃さず前に出た。「何をしてくるか分からないけど、来たのに対応しようとした」。

前半戦は張り差しを多用するなど、選択肢の多い相手の立ち合いを警戒しつつ、体の反応に任せて対応した。取組を見守った八角理事長(元横綱北勝海)は「白鵬に勝つにはこういう相撲だというお手本。距離を空けて、しぶとく足を出しながら取った」と賛辞を贈った。

11年越しの因縁があった。白鵬が相撲普及のため主催する少年相撲「白鵬杯」で、10年に行われた第1回大会で青森県代表として出場。団体戦で優勝し、表彰式ではメダルをかけてもらった。当時は中学2年生。「昔から見ていた大横綱。10年前はこうなるとは思ってなかった」。18年初場所以来、3度目の対戦での殊勲星だった。

前師匠にも成長した姿を示したい。昨年9月、入門時から指導を受けてきた先代阿武松親方(元関脇益荒雄)が、体調不良などを理由に日本相撲協会を退職。「押し相撲の自分をつくってくれたのは先代。その押し相撲で勝てたのは恩返しになった」。18年初場所に右膝を負傷するまで、出世争いで同学年の貴景勝らをリードしていた。「けがして2年になる。そろそろ復活しないといけない」。決意を固めた23歳の三役経験者が、優勝争いを面白くした。【佐藤礼征】

▽白鵬(阿武咲に金星を配給)「ようやく、そういう日が来たなという感じ。ここまでしっかりと育っているなという感じ」