録画したままになっていた「ハバナ・ムーン ザ・ローリング・ストーンズ・ライブ・イン・キューバ 2016」を見た。4年前の9月、1日限定で世界同時公開。その10月にDVDが日本で先行発売されたが、見逃していた作品だ。

16年3月、キューバの首都ハバナで120万人を超える大聴衆の前で行われたフリー・コンサートを撮ったドキュメンタリーである。

米国大統領として88年ぶりにキューバを訪れたオバマ氏はこの2日前の演説で「次はローリング・ストーンズが来る」と前触れした。英国出身とはいえブルースに根ざしたストーンズは、米国音楽の代表として両国雪解けを印象付けたことになる。

2年前にこの欄でキューバを代表するバンドを追った「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」を紹介した。この作品の終盤にもオバマ大統領が登場し、ホワイトハウスに招いたブエナ-のメンバーを友好の象徴としてたたえている。

2本のドキュメンタリーは実はほぼ同時期に撮影されており、オバマ氏をはさみ歴史的氷解をそれぞれの方向から映したことになる。巣ごもり生活のおかげもあり、記憶を元に改めて検索してみると、時間軸にまつわる横のつながりが見えてきた。

位置付けはともかくとして、初お目見えらしい、ステージと会場の一体感がダイレクトに伝わってくる。野外コンサートの休止が続く中、何とも心躍る一編だ。

冒頭からメンバーの声が織り込まれる。

「オバマ大統領のハバナのスピーチはいい前触れになった」

「50年やってきても、まだ挑戦することがあるもんだ」

「おれたちは、まだまだうまくなっている」

演奏やセット・リストはこの年の2、3月に行われた南米ツアーを踏襲しているそうだが、「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」に始まり、「黒くぬれ」「ホンキー・トンク・ウィメン」「悪魔を憐れむ歌」そして「サティスファクション」…これぞストーンズという曲が並ぶ。

ミック・ジャガーは70歳を超えているはずなのに、練度を極めた腰くねくねや歩幅の大きなステップに改めて息をのむ。同年齢のキース・リチャーズは笑顔がいい。ギターさばきはますますかっこいい。ブエナ-には90歳超えのメンバーもいたが、年齢をすっ飛ばす音楽の力を実感する。

広いステージ。メンバー間の距離をゆったりと映すカメラアングルもいい感じだ。初お目見えの感動から、しだいに音楽に取りこまれていく聴衆の変化もしっかりと映し撮る。120万人超のうねりは迫力がある。

「ギミー・シェルター」では、この公演からバック・ボーカルとなったサーシャ・アレンがとびきりの美声を披露して喝采を浴び、「無情の世界」にはキューバの合唱団が参加して、聴衆に歓喜が広がる。

トランプ政権になって、今後の行方は予断を許さないが、少なくともこの作品には「心躍る一夜」がくっきりと記録されている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)