ザ・ローリング・ストーンズがこの7月で結成60周年を迎えた。初期の彼らを映した2本の作品が8月5日から公開される。

「チャーリー・イズ・マイ・ダーリン」は65年のアイルランド・ツアーを追ったストーンズ最初の記録フィルムだ。タイトルは昨年8月に亡くなったドラマーのチャリー・ワッツにささげられている。

「サティスファクション」が英米でチャート1位となり、スーパー・バンドへの足掛かりをつかんだ彼らだが、街頭で出会った家族連れと記念撮影を楽しんだり、雑談する彼らを取り囲むファンに髪の毛を触られても気にしなかったり…そこにはまだまだローカル・バンドの雰囲気が漂っている。

語り部としてしばしばインタビューが挿入されるのはミック・ジャガー。自分たちの見られ方を気にしたり、レストランではファンと窓越しにキスしたり、人気を手探りする様子が垣間見える。周囲の目をお構いなしに振る舞うのがキース・リチャードで、2人の対照的な個性は当時から対になっている。

鉄道での移動中は「一等車に乗れた!」と修学旅行のようにはしゃぐ。「私は『化石』ですが、妻がモダンなので」とサインをねだる鉄道職員。時代を映す周囲と、今見ても「モダン」に感じられる彼らの言動の絡み合いに不思議な感じがする。

終盤は人気の無いレストランでグランドピアノを囲むオフショット。キースの演奏でミックがプレスリーを歌う。モノマネのクオリティーは思いのほか高く、彼らのプレスリーへのリスペクトを感じさせる。

「サティスファクション」を始めライブ映像もぜいたくに挿入され、半世紀以上前の彼らのパフォーマンスが今とほとんど変わらないことにいろんな意味で驚かされる。

ラストは移動中のチャーリーをズームアップ。カメラに向かって不敵に舌を出す。象徴的な幕切れだ。

もう1本の「ロックン・ロール・サーカス」は「チャーリー-」の3年後。ロンドンが文化的に世界で一番とんがっていたスウィンギング・ロンドンの真っただ中、最初のピークを迎えたストーンズが郊外のスタジオにそうそうたるメンバーを迎えた奇跡のようなライブが収録されている。

ザ・フーの「クイック・ワン」からいきなり引き込まれる。ジョン・レノン、エリック・クラプトンにキースも加わった即席バンド「ザ・ダーティ・マック」の「ヤー・ブルース」は圧巻だ。レノンは珍しいくらい情感たっぷり、クラプトンの演奏はやっぱりすごい。すっとんきょうにも思えるオノ・ヨーコのボーカルに驚かされた。

終盤、ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」ではレノンが踊り狂う貴重なショットも挿入される。

ストーンズのリーダーで、「チャーリー-」では陽気な笑顔を振りまいていたブライアン・ジョーンズはこの作品では影が薄くなっている。同時期に撮影されたジャン=リュック・ゴダール監督のドキュメンタリー「ワン・プラス・ワン」では、それがもっと顕著だ。ミックとキースの主導権が顕著になるストーンズの分岐点。ブライアンは翌年に脱退、その直後に亡くなっている。「-サーカス」はくしくも、そんな彼の最後のパフォーマンスを映している。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

(C)2012 Because Entertainment, Inc/ABKCO Films
(C)2012 Because Entertainment, Inc/ABKCO Films