独特の世界観で、誰にもまねのできない作品の数々を残した宮沢賢治が、世に知られたのは37歳で亡くなった後のことである。

まるで行き当たりばったりのように生きた若き日の賢治を家族はどうやって支えたのか。「銀河鉄道の父」(5月5日公開)は、門井慶喜氏の直木賞小説を原作に、心温まる家族愛を描いている。

成島出監督の頭には父親役の役所広司と賢治役の菅田将暉が最初からあったそうで、ちょっとコミカルで人間味たっぷりの父と、怖いくらい真っすぐな息子に、まずはこの2人がぴたりとハマっている。

最初の読者として賢治の才能を信じた賢い妹にふんした森七菜もちゃきちゃきとアクセントを添える。

賢治の奔放が許されたのは安定した家業があったから。その礎を築いた祖父役に田中泯、子どもたちを全肯定する母親を坂井真紀が演じ、随所で腹の決まった心中をのぞかせる。

そして、商才にたけて一家を支えながら何より兄を愛した弟を演じる新進の豊田裕大を含めた賢治ファミリーのアンサンブルが素晴らしく、唯一無二の才能を生み出した「奇跡の家族」とはこういったものか、と実感させる。

成島監督は「本読みの時に、もう役所さんがすごくてね」と、撮影前から役に入り込んだ役所の万全の現場入りを明かす。主演俳優の気合で「家族」がテンション高く撮入した様子が頭に浮かぶ。

「お兄ちゃんのお話、聞くと元気が出るの」

兄の才能を幼少時から信じて疑わなかったその妹が結核に倒れると、賢治は取りつかれたように原稿用紙を埋めていく。自らも結核にかかり、終盤は目に見えてやつれていく。かなりの減量をしたのだろう。鉛筆を握る思い詰めた目に、脱力した病床の姿に、菅田は痛々しいほど体を張っている。

劇中に登場する「春と修羅」「注文の多い料理店」や「宮沢賢治全集」…当時の書籍の再現にも労力が費やされ、ランプの明かりに映し出される旧家の内装が20世紀初頭を実感させる。賢治一家の生活をのぞき見ているような気分になる。

比べようのない特異な家庭のありさまを見ながら、いつの間にか自分の家族のことを頭に浮かべてしまうのは、うらやましいくらいの温かさがこの作品に満ちているからだと思う。【相原斎】