11年前の「オデッセイ」では、火星での一人っきりのサバイバルが、われわれの日常生活から連想しやすいリアリティーで描かれた。同じアンディ・ウィアーの原作だから、新作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」(20日公開)も意表を突く設定に説得力がある。絶望的な状況は友情に救われ、やがてかすかな光明が差す。終盤の心温まる展開に胸が熱くなった。

自説を曲げなかったために学会を追われたグレース(ライアン・ゴスリング)は、中学校で科学を教えている。そんな彼が突然、世界の英知を結集した「ヘイル・メアリー計画」に徴収される。

未知の原因によって太陽エネルギーが奪われつつあり、人類は危機的状況にあるという。この現象は宇宙に散らばるあらゆる恒星に及んでいるが、遠く11・9光年先に無事な星が発見された。そこに宇宙船を派遣し、太陽復活の方法を探るのが計画の概要だった。かつてグレースが発表した学説にこのヒントを見いだした計画の責任者ストラット(サンドラ・ヒュラー)が彼に白羽の矢を立てたのだ。曲折の末、グレースは宇宙船に乗り込むことになる。

人工的な冬眠状態から宇宙船の中で目覚めたグレースは、目標の星の重力圏外まで到達したことを知る。が、同乗の2人はすでに死亡していた。人類の命運を握るミッションにたった1人で立ち向かうことになるが、すぐ近くには同様の目的でやってきた異星人の宇宙船があった。向こうも一人きり。「科学」を共通言語に奇妙な「共闘作業」が始まる。

重大ミッションの実行者が、実は気弱な中学教師というところがこの作品のミソで、ゴスリングのグチやため息に、まるでわが事のように感情移入させられる。

一見「動く岩石」のような異星人には、主人公同様腰が引ける。が、時間を追うに従って不思議な愛着がわく。「LEGO ムービー」のフィル・ロードとクリストファー・ミラーの2人の監督のキャラクター造形は、かめばかむほど味が出る。ハイテク機器の中にダクトテープなどの日用雑貨を活用する演出に、原作者の嗜好(しこう)が反映されている。

ビル・ゲイツやオバマ元大統領が原作本を「号泣必至」と絶賛したという。鑑賞前は信じ難かった逸話だが、映画も終盤にさしかかると、石ころの異星人に魂が宿ったように見え、思わずウルッときた。「E・T・」以来の感覚かもしれない。

プロデュースにも名を連ねたゴスリングの熱演はもちろんだが、「落下の解剖学」が記憶に新しいヒュラーのブレないリーダー像も見事だった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)