蜷川幸雄さんが1998年からさいたま芸術劇場で始めた「シェイクスピア全37戯曲上演」シリーズが、上演中の藤原竜也、石原さとみ主演「終わりよければすべてよし」でラストを迎えている。さいたま芸術劇場の芸術監督となった蜷川さんは、知名度が低かった劇場のマイナス要素を主演にスターを招くことで補った。

これまで23年間の出演者を見ていると、故・平幹二朗さん、市村正親、真田広之、唐沢寿明、大竹しのぶ、大沢たかお、内野聖陽、阿部寛、篠原涼子、市川猿之助、藤原竜也、小栗旬、松坂桃李、菅田将暉、蒼井優、多部未華子らスターが顔を並べている。一方で、主演をしたけれど、その後、引退などで消えた人、当時は脇役だったけれど、今は主演級のスターになった人など「明暗」を垣間見ることができる。

成宮寛貴は04年で「お気に召すまま」、小出恵介は08年「から騒ぎ」、山本裕典は12年「トロイラスとクレシダ」に主演したけれど、成宮は16年に芸能界を引退し、小出と山本は17年に芸能活動を休止した。小出はニューヨークでの演劇留学を経て、20年から芸能活動に復帰し、山本も19年に芸能活動を再開したけれど、以前のような活躍ぶりには至っていない。

一方、長谷川博己は08年「から騒ぎ」、09年「冬物語」、10年「ヘンリー六世」に出演しているけれど、主演ではなく、3番手、4番手のポジションだった。しかし、ドラマで人気となり、20年にはNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で主演を果たしている。中村倫也は07年「恋の骨折り損」でキャサリン、13年「ヴェニスの商人」でポーシャと、いずれも女性役だったけれど、今では演技派としてドラマ、映画にも引っ張りだこだ。

そして、このシリーズで人生が一番変わったのは吉田鋼太郎だろう。小劇場を中心に活動していたけれど、04年「タイタス・アンドロニカス」に初主演し、07年「オセロー」にも主演するなど、シリーズに欠かせない俳優となり、蜷川さんが亡くなった後には2代目芸術監督を引き継ぎ、演出も手掛けている。さらに、市村正親と篠原涼子は01年「ハムレット」の共演をきっかけに結婚している。蜷川さんが後半生に全力を傾けた同シリーズは舞台上だけでなく、いろいろなドラマが生まれている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾「終わりよければすべてよし」の初日公演に臨む、左から藤原竜也、石原さとみ、吉田鋼太郎
彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾「終わりよければすべてよし」の初日公演に臨む、左から藤原竜也、石原さとみ、吉田鋼太郎