市川猿之助(47)の「事件」から2週間が過ぎた。「市川猿之助奮闘公演」と銘打った明治座公演は、中村隼人(29)が夜の部「御贔屓繋馬」、市川團子(19)が昼の部「不死鳥よ 波濤を越えて」の代役を見事に務めて、どちらも満員の客席で千秋楽を迎えた。誰もが予想しなかった緊急事態の中で代役に挑んだ2人を「応援」する多くのファンが詰めかけたが、問題はこれからにあると思う。

事件後、さまざまな報道があったけれど、「これはおかしいのでは」という記事もあった。夕刊紙のコラムで以前、マスコミには「歌舞伎役者は治外法権」との言葉があったと書いていた。海老蔵時代に暴行事件を起こした市川團十郎や、性加害報道で謹慎した市川中車が早い段階で舞台復帰したことについて、謝罪すれば大目に見て復帰できる=治外法権ということのようだ。長い間、マスコミで記者をしているけれど「歌舞伎役者は治外法権」という言葉は聞いたことがないし、言えるのは「甘さがあった」という程度のことだろう。

ただ、今回の事件はこれからの歌舞伎界に大きな影を落とすかもしれない。6月の歌舞伎座公演は昼の部が市川中車と、猿之助の代役の中村壱太郎が夫婦役を演じる「傾城反魂香」、中村芝翫の「児雷也」など、夜の部は「義経千本桜」で片岡仁左衛門が「すし屋」でいがみの権太を演じるが、昼夜ともにまだチケットに余裕があるという。仁左衛門と猿之助は観客動員力のある歌舞伎俳優だけれど、猿之助の不在はチケットの売れ行きに反映しているのだろう。

7月の猿之助が監修し、若手が出演する歌舞伎舞踊公演「夢見る力」も中止が決まり、猿之助が主演・演出する予定の7月の歌舞伎座昼の部「菊宴月白浪」も配役変更あるいは演目変更を余儀なくされるだろう。コロナ禍を乗り切った歌舞伎界は、今また大きな問題に直面している。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

中村隼人(2022年11月撮影)
中村隼人(2022年11月撮影)