2023年の演劇界ではパワハラが大きな問題として取り上げられたが、落語界でも一昨年暮れから続いていたパワハラ問題に、このほど一区切りがついた。三遊亭天歌あらため吉原馬雀(41)が元師匠の三遊亭圓歌(64)から暴行や暴言などのパワハラを受けたとして300万円の賠償を求めた裁判で、先日、圓歌に80万円の賠償を命じる判決が下りた。

馬雀は2009年に入門。22年に破門されるまでに、圓歌はすし店に呼び出して「なめてんのか、てめえ」と顔を殴ったり、自宅の玄関先で土下座させて「ばかやろう」と怒鳴りながら頭を殴るなどのパワハラ行為を繰り返していたという。

圓歌は「師匠としての指導の一環で、違法性はない」と主張したものの、判決では「社会的に許容される範囲を逸脱した」「歴然とした上下関係を背景にしたパワハラというしかない」などとパワハラを認定した。判決に馬雀は「指導という名を借りたハラスメントが認められて、安堵(あんど)しています。弟子にも人権があり、それを無視した指導は間違っている」と話している。

馬雀は破門後、23年に吉原朝馬(74)門下に移り、落語家としての活動を再開している。ただ、この破門・移籍によって空白期間があるため、所属する落語協会内での序列を表す香盤では後輩に5人抜かれ、真打ち昇進の時期も遅れることになる。「真打ちに求められるのは実績を積むことと人間性だと思います。協会内にはハラスメント上で問題のある師匠がまだいるので、ハラスメントをなくす努力を続けていきたい」。そして、真打ちに昇進した時は、新師匠の朝馬に口上であいさつをしてもらうのが夢という。時はかかったけれど、いい師匠にようやく巡り合った。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)