バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードが共演した「追憶」(73年)は、第2次世界大戦をはさんだ激動を背景にしたラブストーリーだった。個性派女子とスポーツ万能のモテ男。近年の胸キュンものに通じる人物設定が、バーブラの主題歌とともに記憶に残っている。

 邦題をこれに重ねたような「追想」は20年近く時代を後ろにずらし、平和な時代ならではの「ほろ苦い思い」が描かれる。

 62年のロンドン。バイオリニストの女性と歴史学者を目指す青年を阻むのは保守的な空気のようなもので、「追憶」の大波に比べればさざ波だ。長らくシェークスピア劇の舞台演出に関わったドミニク・クック監督は、心のひだをていねいに描き、小さな波が男女の心にささくれを立てる様子を見せていく。ヒロイン、シアーシャ・ローナンは24歳にしてアカデミー賞常連。少ない表情の変化にすっと気持ちを映し出す。

 2人のぎこちなさをきっかけに、行き違いが引き返せないレベルにまで至る初夜の出来事。さざ波だからこそ、2人の後半生に悔いは残る。「追憶」のラストはグッときたが、こちらの終わり方はホロッとくる。【相原斎】

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