英国の代表的作家チャールズ・ディケンズ(1812~70年)が「クリスマス・キャロル」を発表したのは31歳の時だ。ツリーとプレゼント-現代のクリスマスのあり方をこの小説が決定付けたといわれる。

「オリバー・ツイスト」から4年。作家の地位は確立していたが、子だくさん(最終的に10人)の生活は決して楽ではない。意外とあたふたとしている文豪の素顔。学校の課題図書で、嫌でもなじみのある作品の背景に好奇心がわいた。

家の改装費用のため、前借りを要求するディケンズに出版社が出した条件は、クリスマスを題材にした小説だった。執筆期間は6週間。妻は勝手に改装を進め、両親は無心に来る。追い詰められたディケンズは妄想の世界に入っていく。

演じるダン・スティーブンスの焦点の定まらない目が迫真。生みの苦しみがリアルに伝わる。妄想に登場する「-キャロル」の主役スクルージには名優クリストファー・プラマー。枯れっぷりが守銭奴ながらどこか憎めない作品のキャラにピタリとはまった。

19世紀のロンドンのセピア色、妄想描写も巧みにくすませている。大人が楽しむ渋めのおとぎ世界だ。【相原斎】

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