蜷川実花監督は好んで極限状況を題材にする。「さくらん」(07年)で吉原に売られた少女を描き、「ヘルター・スケルター」(12年)には整形美容の修羅場が登場した。そして3作目の今回は殺し屋専用の食堂が舞台。一触即発の狂気に満ちている。

食堂を切り盛りするのが元殺し屋のボンベロ(藤原竜也)で、不本意ながらウエートレスをせざるを得なくなったカナコ(玉城ティナ)の目を通して、ひりひりするような殺し屋たちのやりとりが描かれる。

玉城のオドオド感がリアルで、「死」と隣り合わせの緊張感が伝わる。それでも孤独で生きる目的もなかったカナコにとって外の世界は灰色。命がけの店内は、むしろ不思議な輝きに満ちている。実花監督は得意の極彩の色使いでそんな心境を映し出す。

最初は近寄れば切られそうな空気を醸していたボンベロも、しだいに人間味がにじみ出て、カナコと心を通わせる。藤原は劇画タッチの中でもさじ加減を心得て、しっかりと物語を進める。窪田正孝、本郷奏多、武田真治…殺し屋たちは個性を競う。様式美を背景に若手巧者たちがとんがり比べを楽しんでいる。【相原斎】

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