囲碁の世界最年少の9歳4カ月でプロ入りを決め、1日に入段した大阪の小学3年生の藤田怜央(れお)初段の余正麒(よ・せいき)八段(27)との記念対局が先日、大阪市中央区の関西棋院で行われました。対局場では、師匠、恩師らがそれぞれの思いを胸にプロ第1歩を見守り、エールを送りました。

記念対局は関西棋院YouTubeチャンネルでライブ配信されました。師匠の星川拓海五段(39)、「大阪こども囲碁道場」の師範を務める佐田篤史七段(26)が解説を務めました。

「怜央には頑固なところがある。でも、強くなる子は頑固じゃなければ強くならない」。師匠は8月の入段会見でのエピソードを披露しました。将来、対戦したい棋士の質問に藤田初段は「……」。助っ人として同席していた師匠は耳元で「余正麒八段」とささやきましたが、首をかしげたといいます。以前から余八段に憧れていたことを知っていたので、助け舟を出したつもりでしたが、頑固に“拒絶”し、最後は「井山先生」と小声で告白。実は余八段とともに井山裕太四冠も憧れの棋士で、譲れない一線だったようです。

本因坊リーグ2期の経験があるトップ棋士の佐田七段は「小学1年のときから志が高かった」と話します。小学1年から週5~6回、藤田初段は「大阪こども囲碁道場」に通いました。道場では、棋力アップのために対局の記録である「棋譜」を碁盤に並べる棋譜並べをします。「子どもたちは人気のある日本の棋士の棋譜を並べることが多いのですが、怜央くんは小学1年から海外のトップ棋士の棋譜を並べていた」。

「日本の棋士のを並べてみたら」とアドバイスしても見向きもせずにスルー。目標は国内での7冠王、そして世界一。「おそらく早い段階から強くなりたいという思いがあったのでしょうね」と振り返りました。

10歳でプロ入りした中学生棋士の仲邑菫二段(13)と対戦したことがある佐田七段は「勝負の世界を身体で覚えてきたからこそ、身に付けることができるものがある。早い段階からトップと打つことは財産」と話し、藤田初段に「課題がこれだけ明確なのにこれだけ強いということは、自分ではまだ把握できていない才能がないと勝てない。変に縮こまらずに、怜央くんの碁を打ってほしい」とエールを送りました。

オセロに関心があり、父の陽彦(はるひこ)さん(41)がオセロ教室を探しましたが、見つからなかったため、仕事場近くの碁会所に連れていったのは4歳のときでした。

最初に指導した碁会所席主で関西棋院公認インストラクター、林達也さん(48)は記念対局で記録係を務めました。「ちょっと緊張していたみたいだけど、途中からいつものようにスイッチが入った、余八段も中盤からガラッと雰囲気が変わり、こちらもドキドキした」。藤田初段の“生みの親”は勝負の世界の厳しさを承知の上で、こうエールを送ります。

「大好きな囲碁を楽しんでほしい」【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)