どんな役でも、自分色に染める。俳優高良健吾(33)。公開中の映画「あのこは貴族」(岨手由貴子監督)では弁護士役を好演している。「役には絶対になりきれない」と持論を持ちながらも「役として、その場にいられる人になりたい」と話す。意識と無意識、そして、さまざまなこととの距離感。その俳優論に迫った。

★映画で弁護士役

「あのこ-」は、箱入り娘の榛原華子(門脇麦)、地方から上京し自力で生きる時岡美紀(水原希子)を中心に展開していく。高良は、異なる環境で育った2人をつなぐことになる弁護士、青木幸一郎役を演じた。

「今思うと、難しかったのかなっていう気がしています。あまり自分のなかでは違和感なく、難しさもそんなに感じずにやっていたんですけど。今までやったことがないようなことで、幸一郎を表現してみたい、それができるんじゃないかなって思っていたのに、終わった時に『あれって正しかったのかな。もしかしたら、難しいことを逆にしちゃったのかな?』と思いました。難しいだろうけど、それを簡単にやって、簡単に見せていくっていうことをしたかったから、逆に、ややこしくしているんじゃないか、と感じています」

幸一郎は華子、美紀に異なる表情を見せる。

「生まれた家柄から逃れられない部分と、この人には見せて、あの人には見せないという、内面の部分は作ろうって思っていました。心を開いているようで開いていない部分と、開いてなさそうに見えて、開いている部分。なぜかこの人には全部を見せているという部分でも、その中に、隠している何かっていう、ちょっとしたところとか。そこを細かくやれそうな役だったので、そういうのをちゃんとやりたいなと思っていました」

劇中で幸一郎は、華子と結婚する。高良自身は、結婚を意識することはあるのだろうか。

「あります。やっぱり、自分の周りの人たち、地元の人たち、みんな結婚していて、子どもが2~3人いたり。今、マイホーム建ててたりという年代なんです。そうなると、やっぱり何となく、結婚っていうのは意識するようになってはいます。ただ、焦ってはないです。いろんな幸せがあるから。自分で自分の幸せは決めたいって思うから、それがあるのでそんなに焦ることはないです」

★時代劇 役が成長

一方、2度目のNHK大河ドラマとなる「青天を衝け」では、吉沢亮(27)演じる主人公・渋沢栄一のいとこ、渋沢喜作を好演している。

「時代劇は楽しいですね。時代がもう、ありえないところに自分が飛んでいくので。あの時代に生きた人たちの思いとか、生き方というのを自分で想像して作っていくから、本当に作りものというか、その感じがすごく楽しいですよね」

同作では16歳~70代後半まで演じるという。「どう演じても、後で合ってくると思っている」と、周りのいろんな意見を取り入れ、演じている。

「大河や、朝ドラの魅力って、1つの役を長丁場でやれることなんですよね。10代のころの喜作が、どういうふうに大人になっていくか。そういう差をつけて演じられるんです。最初に何もかも決めてやらなくていい。だんだん役として、成長していくのを楽しめるんです」

高良は、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎新人賞(10年)同主演男優賞(15年)など、これまで多くの賞を受賞してきた。俳優を目指すきっかけとなったのは、02年の日本テレビ系ドラマ「私立探偵 濱マイク」だった。

「中学校3年生の時に、永瀬正敏さんが好きで見ていたんです。それが、今まで見たことないようなドラマでした。1話1話、違う映画監督が撮ってて、意味が分からなかったけど、面白かったっていう感覚がありました。それで、それを撮った監督さんの作品を追っていったら、映画に興味を持って、芝居にも興味を持ち始めました」

★ゴール全然まだ

デビュー当時は、無意識で演じることが多かったという。高良は演技を「うそ」と言い換えるなど、独特な表現を用いる。

「若さとか勢いとか、無意識でやれる瞬間っていうのは、絶対に誰にでもあると思うんですよ。それでずっといける人もいると思うけど、僕はそれでいけないと思った。例えば、日刊(スポーツ映画大賞)で評価していただけた時に、自分がやっていたことが全て、無意識だったりするんです。何で自分は、その賞をつかめたのかが分からないっていう。でもそれでは今後は続かないって思った」

「だから」と切り出し、こう続けた。

「僕は今、やろうとする芝居、自分が現場でやろうとしていることに対しては、意識的でありたいと思います。自分がちゃんと、つかなければいけないうそ(演技)に対して、意識的でありたい。ちゃんと自分がつくうそ(演技)を捕まえられないと、多分、僕はもう無意識のままうそ(演技)をつき続けることになるから、それはちょっと避けたいと思っています」

役作りの秘訣(ひけつ)を聞くと、「役には絶対になりきれない」と、予想外の言葉が返ってきた。

「自分は役になりきれるとは思わないんです。だから、ちゃんと役として、シーンであったり、その作品の中にいれたらいいなって思います。『カメラの前で、自然体で演じました』ということ自体、僕の中では違うんですよね。できないからそんなこと。台本に書かれているせりふをちゃんと言う。ただそれだけのことが難しいので。ちゃんと、そのせりふが役の言葉になればいいなと思います」

気が付けば33歳になり、現場での立ち位置も変わってきた。同じ所属事務所にも、深川麻衣(29)中条あやみ(24)ら、勢いのある後輩が増えてきた。

「20代の時は、役の問題や、でかく言えば世の中の問題、それを自分の問題にしすぎて、自分からきつい方に行っていた気がしています。30代になったら、少し楽になって、答えが見えるのかなと思って、早くなりたかったんです。実際になってからは、自分がやろうとしていることを意識するようになって、少し自分との距離感、世間との距離感、現場や役との距離感というのが自分の中で、見つけることができるようになったのかな。全然まだ、ゴールじゃないですけどね」【佐藤勝亮】

▼「あのこは貴族」岨手(そで)由貴子監督(37)

業が深いエリート役(あのこは貴族)から愛すべきおとぼけ役(横道世之介)まで、幅広い役柄を演じていらっしゃいますが、芝居はもちろん、ビジュアルの印象まで全く違います。どんな役もすごい説得力を持って魅せてくれる、かなりまれな俳優なんじゃないでしょうか。その一方で、拭いきれない誠実さみたいな“味”を持った方だと思います。幸一郎は、本来感情移入する隙のないキャラクターでしたが、高良さんの持っている“味”とぶつかったことで、幸一郎特有の不器用さが表現され、はじめて役に命が宿ったの覚えています。

◆高良健吾(こうら・けんご)

1987年(昭62)11月12日、熊本県生まれ。05年日本テレビ系連続ドラマ「ごくせん」でデビュー。映画では10年「おにいちゃんのハナビ」で日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎新人賞、15年「悼む人」で同主演男優賞。12年「軽蔑」で日本アカデミー賞新人俳優賞、14年「横道世之介」でブルーリボン賞主演男優賞など多くの賞を獲得。ドラマでも16年フジテレビ系「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」、19年同「モトカレマニア」など数々の作品に主演。176センチ。血液型O。

◆映画「あのこは貴族」

山内マリコ氏の同名小説が原作。門脇麦、水原希子が演じる都会の異なる環境を生きる2人の、恋愛や結婚だけではない人生を切り開く姿を描いた物語。

(2021年3月7日本紙掲載)