「僕にとって歌は『かっぱえびせん』なんです」。演歌歌手山内惠介(38)は、笑いながらそう話す。やめられない、止まらない-。デビュー20周年を迎えた昨年はコロナ禍でコンサートが軒並み中止に。コンサートこそが山内の「ルーツ」だった。そんな男が9月に、約8年ぶりとなるカバーアルバム「Roots」を発売した。勢いそのままに、大みそかの「NHK紅白歌合戦」に7年連続出場を目指す。

★5歳で歌った「みだれ髪」

山内惠介を語る上で、外せない名曲の数々を「Roots」に詰め込んだ。美空ひばりさんの「みだれ髪」や、デビューのきっかけをつかんだ曲、家族が好きだった曲の数々。山内は「家族がいる中で流したら大変ですよ」と笑う。

「新たに21年目を歩み出す時に『最近、カバーアルバムやっていないね』って。そこで20年を振り返る『Roots』というタイトルでやっていこうと話が進みました。これまでコンサートで歌ってきた楽曲を、オリジナルのようにアレンジして。尊重するものは尊重して、ガラッと雰囲気を変えたものを作ったり。結構凝りました」

凝縮された10曲の中でも、一番思い出深い曲は「みだれ髪」だという。

「改めて、幼少期を思い出しました。5歳の時に祖父母や親戚の前で歌って、みんなが褒めてくれて。そこから僕は歌のとりこになりました。2オクターブ弱くらいの幅のある、とても難しい楽曲なので、自分の声で表現するのはプロとしての血が騒ぐというか。この歌に影響されてきたんですけど、実際に歌手になってみたらひばりさんの存在がドンドン遠くなっていきました。『こんなにすごい人だったんだ』って分かりました」

山内にとって演歌は「腰に力が入る。どこか武道に近いものがある」という。演歌の魅力とは?

「日本語の美しさもさることながら、ふるいに掛けられた言葉っていうのが四行詩、五行詩の世界ですよね。そこがポップスと全然違うところですね。そこに残った『てにをは』を含め、すべてに強い意味がある。それを自分が表現していく。行間を埋めたり、そこに書いていない言葉を自分で想像したり。間奏にどんなドラマがあったんだろう。そういうのを想像する。イマジネーションというのは、特に演歌は強いんじゃないかと感じます。いろんな歌が好きなんですけど、結局は演歌を歌うと一番、自分の身体にしっくりきて『やっぱりこれだ!』という感じですよね」

★個性的な声が武器

高校生だった17歳でデビュー。「もうちょっとしてからデビューしても良かったなって思います」と笑うが21年も続いている。

「続けられたのは、周りの方に恵まれていたことです。あとは歌がやめられない、止まらない。僕の中では『かっぱえびせん』だったんです(笑い)。デビューから数年後、仕事がなくて、歌をやめた方が良いのかなって思う時もあった。その時に、自分から歌を取ったら自分が自分じゃなくなるということが分かったんです」

武器はズバリ「声」だ。だが、コロナ禍で自慢の声の維持が難しくなった。

「おかげさまで個性的な声をもらえたなと両親に感謝です。正直、デビュー当時より今の声の方が愛せています。だんだん声も変わってきて、維持していかなければと感じます。特にコロナ禍で、何百もあったステージがなくなって。発声練習はしていますけど、お客様に見られた中で声を出すことで、声は磨かれるんです」

コンサートこそが、山内の「ルーツ」だ。

「僕はツアーアーティストになることが夢で、いまだにそれを追い掛けています。昨日までの自分が生きてきた人生を、その場で表現するというか。そういうことで自分を発見したり、あるいはリセットしたり。そういう場所なんですよね。だからコンサートが無くなったというのは、自分を見失うというか。コンサートは自分の帰る場所であり、自分を一番表現できる場所ですから」

そのステージでは決して妥協しない。1ステージとして同じものはない。「命がけで歌っているって思って欲しい」と話すほどだ。

「自分でもうまくいくのか、楽しみです。どこかフィギュアスケートと似ているところがあると思うんです。尻もちをつく時もあるけど、トリプルアクセルを決めた時には、お客様が歓喜する。僕もそうなんです。アンパイを求めたら満足できないので、ギリギリ感で『なんか懸けているな』って。それくらいのチャレンジ精神を持って立ちたいなと。うまく表現できた時に、お客様がわーっと拍手をくださるので」

★7年連続紅白へ

年末の紅白歌合戦には、6年連続で出場中だ。今年ももちろん「出場したい」と意欲を見せる。

「12月31日に1年間を振り返りながら、ファンのみなさんに『今年も1年間ありがとうございました』って、笑顔とともに歌を届けられるっていうことはね、最高なんです。今年は選んでいただけたら(新曲の)『古傷』をお届けできたらいいなーって思っています」

5歳の少年は演歌によって、年齢の離れた祖父母と距離が縮まった。演歌を世代をつなぐ懸け橋にするために、さらに進んでいく。

「2人の兄たちが50歳と48歳になったんです。僕はこういう世代の人たちに自分を認めてもらえるかもらえないかで、これからの歌手人生が変わってくると思うんです。『古傷』みたいな曲を、兄たちの世代が歌ってくれるようになると、またさらに上の世代の人たちとの懸け橋になるんじゃないかと。それは良いスパイラルを生むと思うんです。僕がそうだったように、演歌歌謡曲というのは本当に懸け橋になる。そういうものだからこそ、残っていると思うので。もう、歌えるんだったら一生歌っていたいですよ(笑い)。でもね、まあそれは自分の努力次第ですよね」【佐藤勝亮】

▼ビクターエンタテインメント山内惠介宣伝担当 平岡秀雄氏(48)

熱唱とユーモアあふれるトークで観客の心をわしづかみにする山内さん。ステージでは演歌のみならず、ポップスや歌謡曲と幅広い歌を届けていますが、その本番前の楽屋では、歌の世界観をしっかりと伝えるために、持参のノートに何度も何度も歌詞を書き込む姿がとても印象的です。また、スタッフとの普段の会話では、会話に加わっている全員に常に目を配り、時には冗談を交えながら、気遣いのある言葉で話す姿に感心させられます。こうした日頃からの気配りがあるからこそ、多くの方々を魅了し続けているのだと思います。

◆山内惠介(やまうち・けいすけ)

1983年(昭58)5月31日、福岡県糸島市生まれ。高1の時に、初めて出場した福岡県内のカラオケ大会でスカウトされる。17歳の01年に「霧情」で歌手デビュー。15年に第57回日本レコード大賞の作曲家協会選奨。178センチ、58キロ。血液型O。

◆「Roots」

2013年の「時代を超えた同歳(おないどし)」以来、約8年ぶりのカバーアルバム。北島三郎「男の劇場」や、オリジナルの新曲1曲を含めた全10曲を収録。全編が上杉洋史氏によるアレンジ。

(2021年10月24日本紙掲載)

ジャケットの内側のデザインもまるでドレス
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インタビューで選ぶ言葉も丁寧で心に響いてくる山内惠介
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