川栄李奈(29)が「なじみやすさ」を武器に、女優としての地位を着実に築いている。映画「ディア・ファミリー」(月川翔監督、6月14日公開)では心臓病疾患の妹を持つ姉を熱演。24年もドラマや映画、舞台に引っ張りだこだ。2児の母でもあるプライベートと仕事の切り替え術や、30歳を前に思い描く役者としてのこれからを聞いた。【玉利朱音】

★気持ち大切に

「ディア・ファミリー」は、生まれつき心臓病疾患を持ち「余命十年」を突きつけられた次女を救うために、人工心臓の開発に立ち上がった父親の実話を描く。川栄演じる奈美は長女として強く家族を鼓舞する一方、誰もいないところで涙する一面も。自身は「監督に言われた通りやるタイプ」だというが、本作中で1人涙するシーンでは「人生で初めて」自ら撮り直しを志願した。

「1回泣いたんですけど『浅いな』というか、すごく嫌で。自分の妹が病気で、もう余命わずかって時にこんな泣き方じゃないだろうと思って。すごく冷静な感じの自分がいたのが違うなと感じたんです」

撮影前にはモデルとなった家族とも対面。「自分が演じる(モデルになった)方にお話を聞けることってあまりなくて。プレッシャーじゃないですけど、普段は自分の気持ちでお芝居をするところを、今回は(実在の)奈美さんの気持ちを大切に演じたいと思いました。ご覧になって『私あんな冷静じゃなかった』ってなるかもしれないし、実際にいらっしゃる方の気持ちを伝えなきゃと思うと…」。10テークほど重ね、納得のいく芝居に到達した。

父役の大泉洋(51)母役の菅野美穂(46)らベテラン役者とも芝居を交わし、多くの学びを得た。

「大泉さんは『こっちの方がやりやすいのでは』と、お芝居を一緒に作ってくださりますね。菅野さんは優しく見守ってくださるし、段取りの時からずっと気持ちが入っていて何回やっても本当に全力、120%でお芝居をされる印象。おふたりと身近で家族になれて、お芝居を学べたのはすごくいい経験でした」

★お芝居1本で

15年にAKB48を卒業し、「お芝居1本で」と女優業にまい進してきた。21年には上白石萌音、深津絵里とともに3世代ヒロインの1人としてNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に出演。今年は日テレ系「となりのナースエイド」で初めてゴールデン・プライム帯の連ドラ主演を果たし、出演映画も続々公開するなど、まさに引っ張りだこだ。

自身の役者としてのアピールポイントを聞くと「地味なところですかね?」とほほ笑んだ。「特徴がないのでいろんな役ができるなと思ってます。時代物とか、どの作品にもなじめる自信はありますね」。

約6年前のインタビューでは「外で『川栄だ!』となれば(気付かれれば)一人前なのかな」とつぶやく場面も。キャリアを順調に重ねた今はどうなのか。

「全然バレないです。街を歩いてたりとか、それこそお仕事でどこか行った時とかも。いまだに『わー! 川栄李奈!!』ってなったらうれしいなとは思ってます」と苦笑いしつつ、「われながら、なじむ力がすごすぎる。どこでもなじめます!」と胸を張った。

★子育てと両立

私生活では19年、舞台共演をきっかけに俳優廣瀬智紀(37)と結婚。同年11月に第1子、昨年6月に第2子を出産し、子育てと女優業をパワフルに両立する。いつも元気な理由は「女優の川栄李奈」と「普通の川栄李奈」の切り替えができるから。「仕事は仕事。終わったらもう、終わりなんですよね。仕事を終えても『普通の川栄李奈』は疲れていないじゃないですか? 舞台で2回公演やったあとでも疲れてないときが結構あるんですよ」とニヤリ。「周りの方からも言われるんですけど、仕事のこととか本当に引きずらない。そこは長所なのかな」とあっけらかんと笑った。

3月からはオーディションで射止めた主演舞台「千と千尋の神隠し」が開幕。橋本環奈、上白石萌音、福地桃子とともに千尋役を演じていく。10歳の千尋の素直さをみずみずしく表現した芝居が好評だ。上演は約3時間、千尋役は運動量も多い。

「そんなにヘトヘトにはならない。でも期間がちょっと空いて久しぶりにやると、全然10歳の体力じゃないなって思い知らされます」

★来年30歳節目

これまで、舞台への出演は消極的だったという。

「緊張するし、絶対にミスしたくない思いがすごくあって。なので、舞台ってあんまり出ないようにしてたんです。プレッシャーみたいなものを感じてしまうから」

「千と千尋-」は、約6年ぶりに意を決して挑戦した舞台作品だった。

「これまでの舞台では『楽しかった』って終われたことがあまりなかった。でも今回はすごく楽しめてると思います。たぶん年齢を重ねたのもあるんですけど。ミスをしても他で取り返そうと思えたり、あとアンサンブルのみんながすごく心強い。『うちも今日ミスしたよ、大丈夫ミスなんてみんなしてるから』みたいな感じで温かいんです」

来年2月には30歳の節目を迎える。

「もっといろんな役がやれるようになりたい。これまで学生役が多かったけど、この年になると教師役とか、それこそお母さん役とか…。まだまだやったことない役にたくさん出会えるんじゃないかな」

AKBを卒業したばかりの、20歳のときに決めた3つの目標がある。

「朝ドラヒロインになること、大河ドラマに出ること、日本アカデミー賞を取ること。うち2つをかなえられたんですけど、アカデミー賞がまだなので。それを達成できるように頑張ります」

夢をかなえて飛躍を遂げた20代をへて、川栄李奈はさらに深みを増していく。

▼「ディア・ファミリー」で川栄と2度目のタッグとなる月川翔監督(41)

ベテランのような安心感がありながら子どものようなみずみずしさが同居している女優さんです。リテークを志願されたシーンについては、本人が「もうちょっとやれるんじゃないか」ということでぜひやってみようと。でも言ってしまったが故に逆に力が入ってしまったみたいで。帰る時間も迫って、もうダメかもと思ったときにいいテークの雰囲気になったんです。現場の状態や相手の芝居に合わせて物語にすっと溶け込んでいく、本当に柔軟な方。今後挑戦があるとしたら、我を出す、自分からアクティブにとにかく発信するような役で川栄さんがどうなるか見てみたいですね。

◆川栄李奈(かわえい・りな)

1995年(平7)2月12日、神奈川県生まれ。10年7月、11期生としてAKB48に加入。15年8月卒業。同年の舞台「AZUMI 幕末編」で主演。16年、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、21年にトリプル主演の「カムカムエヴリバディ」、大河ドラマ「青天を衝け」などに出演。152センチ。血液型O。

◆ディア・ファミリー

世界で17万人の命を救ってきた“命のカテーテル”の誕生に隠された奇跡の実話。余命10年と宣告された娘の命を救うために、人工心臓の開発に立ち上がった父親とその家族の姿を描く。原作は清武英利氏の「アトムの心臓『ディア・ファミリー』23年間の記録」。