「東京2025 世界陸上」(21日まで、国立競技場など)が13日に開幕した。TBS上村彩子アナウンサー(32)は、14日に行われる女子100メートル障害予選の実況を担当する。自身も高校時代は陸上部に所属し、同種目の新人戦で千葉県2位になった実績を持つ。女性アナウンサーの実況抜てきは28年ぶり。愛する陸上の魅力を伝えるべく、当日を迎えるまでの思いを語った。【鎌田良美】
★女性はリポーター…思い込み
東京で34年ぶりに開催される世界陸上の実況に、TBSは4人の女性アナウンサーを抜てきした。日比麻音子、篠原梨菜、佐々木舞音。中でも真っ先に候補に挙がったのが上村アナウンサーだった。昨年4月、佐藤文康アナウンサーから打診があった。
「ちょっと話したいことがあるからと言われて。世界陸上で、私が高校時代に専門でやっていた女子100メートルハードルの実況をやってほしいと。でも、即答でやりますと言えなかったんですね」
入社当時から世界陸上に関わりたいと公言してきた。17年ロンドン、19年ドーハ大会はリポーターとして参加した。それでも実況は“別枠”だと思っていた。
「実況は男性、女性はリポーターと思い込んでいて、不思議に思ってもいなかった。その枠の中で最大限の仕事をやろうと思っていたんです」
★'09と'17 心に残る2つのレース
スプリント競技は特に難しいイメージがあった。背中を押してくれたのは、同期で今年3月に退社した宇内梨沙アナウンサーだった。「『悩んでるってことは、心の中ではやりたいと思ってるってことだよ』と言ってくれて。チャレンジしてみようと決意しました」。2週間後に快諾した。
佐藤アナウンサーのサポートも受けながら、練習の日々が始まった。過去のスタートリストを印刷し、実況を文字起こしして、映像を見ながら読んでみる。
心に残っているレースを2つ挙げた。1つは女子100メートル障害で、木村文子が日本人初の準決勝に進出した17年大会。実況は佐藤アナウンサーが担当していた。「私も見ながらだったら言えるんですけど、13秒で即興は難しい。先輩たちのすごさを実感しました」。
★ボルト世界新の実況に「鳥肌」
もう1つは09年ベルリン大会。ウサイン・ボルトがマークした100メートル9秒58の世界記録に、初田啓介アナウンサーが「また人類は速くなった!」の名フレーズを残した。
「何回見ても鳥肌が立つくらい感動します。当時高校2年生でちょうど陸上をやっていた時。『9秒58』の言い方も、いかにすごい記録が出たかを口調で伝えて。陸上ファンの気持ちも全部を代弁した実況と解説の絡みだったというか」
自身もアスリートだ。「炎の体育会TV」で「芸能界最速女子軍」の一員としてマスクドランナーと対決したり、女性版SASUKEのKUNOICHIに出場したり。16年にはフルマラソンを完走した。「スポーツは日々に彩りを添えてくれる。お気に入りスポットがあって、直線のところでたまにダッシュしてます」と運動は続けている。
★'07大阪世陸刺激 バスケから陸上へ
小3から中3まではバスケットボール部だった。「07年の大阪の世界陸上が中学3年生。次の年から陸上を始めたんですけど、あの盛り上がりもあって陸上を選んだのかなって」。千葉・専大松戸では「たまたま空いていたので」と100メートル障害を専門にした。高2の新人選手権で県2着になり、関東大会に出場。世陸に導かれるように陸上競技に出会い、打ち込んだ。
「いつもあざだらけでした。(ハードルに)膝をぶつけたりして。そういう面では、選手たちがすれすれを走る怖さとか、自分と戦っているところとかは、うまく描写できたら」。経験者ゆえの視点を伝えたい。
17年からスポーツ情報番組「S☆1」を5年間担当し、スポーツ取材を幅広く経験した。心身を高め続けるトップ選手に学ぶことは多かった。
「取材する自分自身も人間性を高めることが必要だなと思いました。ふとしたインタビューや、それこそ実況で考える間もなくコメントする時って、人格や性格が出ると思うんですね。挑戦し続ける選手たちと触れ合ったからこそ、自分も今回、チャレンジするというのもあります」
★入社11年目「文康さんに感謝」
入社11年目、実況歴は0年。「女性が挑戦する機会をつくってくれた文康さんにはものすごく感謝してます。枠から出てチャレンジしてみようって、ちょっとでも思ってくれる人がいたらうれしい」と言った。
思えば8年前、既にこの挑戦を勧めてくれた先輩がいた。17年大会、実況担当の初田アナウンサーに資料作りの手伝いを申し出た。「女性にそんなこと言われたのは初めてだ」と驚いた様子で、忙しい時間を割いてくれたという。
「今考えたら、手伝ってもらうとより面倒くさい資料もあるんです。それなのに『これはワールドレコードって読むんだ』とか、『これは追い風参考のことだ』とか教えてくださって。私が作った資料も少し実況に盛り込んでくれた」。そして「いつか上村さんも、世界陸上の実況をやったら」と勧めてくれた。当時はどう答えていいか分からず、笑って流してしまったが“いつか”は来た。
★「自分の言葉 紡ぎ続ける力を」
スプリント競技と同様に、アナウンサーも瞬発力が求められる。この技術を磨けば、報道の仕事にも生きると信じている。「予定調和じゃないことが起きた時に、自分の言葉を紡ぎ続ける力。それを身に付けて、ちゃんと生かしていきたいなと思っています」。
陸上を見るおもしろさは身をもって知っている。だからこそ「見どころや選手のバックグラウンドを簡潔に伝えて、もっとみんなに陸上を好きになってほしい」と願う。「放送席の近くで生の実況を聞きながら見た時、本当に感動したんです。映像だけでもドラマチックなのが、実況がつくとこんなに魅力的になるんだと。そんな実況を心がけたいです。応援も絶対、選手たちに届くと思うので、たくさんの方に見ていただきたいです」と力を込めた。
▼TBS佐藤文康アナウンサー
純粋で好奇心旺盛。飾らず真っすぐに物事を捉え、突き進むことができる人です。仕事では報道からスポーツ、情報番組まで幅広く担当してきたマルチプレーヤー。家族を大切にし、プライベートではディズニー大好きという一面も。
報道フロアのらせん階段の下で実況をお願いしてから1年半。よくここまで準備してくれました。本番直前まで不安も大きいと思いますが、100メートルハードルを走った経験があるアナウンサーは上村さんしかいません。スタートの緊張感、ハードルにぶつけた経験、全てが実況に生きるはずです。主役は選手ですから、あとは選手と同じくらい丁寧に準備して、背伸びせずマイクの前に向かってください。千葉でハードルを跳んでいたあの高校生が、数年後の東京世界陸上をどんな言葉で伝えてくれるのか、本当に楽しみです。
◆上村彩子(かみむら・さえこ)
1992年(平4)10月4日生まれ、千葉・市川市出身。上智大卒で15年にTBS入社。現在は「news23」金曜キャスター、「Nスタ」日曜キャスターの他、「JNNニュース」、BS「報道1930」、ラジオ「サステバ」などに出演。血液型B。








