先日とあるサッカーの記事を見ていてハッとさせられた。選手の特性を表す「ポリバレント」と「ユーティリティー」という用語について。これまで同じように考えていたのだが、実は違うらしい。どちらも複数ポジションをこなせる器用な選手と認識していたが、前者は「ひとつのポジションで多様(攻撃や守備)な動きができる選手」、後者は「複数のポジションをそつなくこなせる選手」。代表的な選手として、バイエルン・ミュンヘンのMFキミッヒとリバプールのMFミルナーがあげられていた。はい、サッカーを知らない人すいません。
ここで本題、俳優にも同じことが言えるのではないかと考えてみる。どんな役でも自身の個性を出し、作品のスイッチを入れる俳優と、さまざまな役をそつなくこなす俳優という風に。そうやって考えると、そつなくこなす「ユーティリティー」タイプはたくさんいるが「ポリバレント」となるとなかなか見つからない。当たり前に希少な存在なのかもしれない。
そこで、今回紹介するのは江口のりこ(40)。昨年放送された国民的ドラマ「半沢直樹」(TBS系)で白井大臣を演じ、白いスーツと「お・も・て・な・し」に似たセリフで注目される。さらに映画「事故物件 恐い間取り」で、本年度の日本アカデミー賞(優秀助演女優賞)にノミネートされている。
今クールは「その女、ジルバ」(フジテレビ系)と「俺の家の話」(TBS系)と評判のよい2作品に出演中。それぞれ主人公に近いキーとなる役を演じ、独特の個性を放っている。ダメ押しとして、4月クールの民放ドラマにて初主演が決まっている。飛ぶ鳥を落とす勢いのごとく、今もっとも旬な女優さんではないだろうか。顔を見れば誰もが、「あー、あの人ね」というレベルまで間違いなくきている。
ちなみに余談だが、自身の作品のキャスティングをする時は業界にいない人に相談する機会が多い。例えば田舎の両親に候補となる俳優の名前をあげてみてアドバイスを受ける。いわゆる世間の反応を聞くことで、凝り固まっていた考えがすっとほぐれる瞬間が多々ある。
さて、江口のりこ。思えばずっと見ている気がする。初めて認識したのは2005年のドラマ「時効警察」(テレビ朝日系)あたりからだろうか。出演数は、PCの画面内に収まらず、何度もスクロールが必要。ドラマや映画で15年にわたり見ていることになる。
個性的な顔立ちに、少し残っている関西弁のイントネーション、あとは言葉を発する間がなんとも独特である。経歴を見てみると、高校に行かずにアルバイト生活からの劇団入り。キャリアも独特である。数年前まではユーティリティータイプ(どんな役でもそつなくこなす)だった気がするが、昨年の「半沢直樹」あたりから確実にポリバレントな俳優になりつつあると確信した。
主人公を中心に物語が動いていく中、彼女中心のドラマを頭の中でどこかで想像してしまう。また、「俺の家の話」では、名だたる俳優たちを前に物おじしない態度でぐいぐいと物語を動かしていく。こうした演技が主役へと導いているのではないかと思う。まずは4月クールの主演ドラマ、ポリバレントな存在からエース級になるのを期待したい。
◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。20年11月28日には最新作「渋谷シャドウ」も公開。
(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)





